生き物・学び・研究センターブログ
2021年2月1日(月)スローロリスの社会行動についての研究
先日,アメリカ霊長類学会の機関誌であるAmerican Journal of Primatologyにピグミースローロリスの社会行動に関する研究結果が掲載されました。過去5年くらいの関係者の努力がひとつ実った形で感慨もひとしおです。日本語の解説は研究を実施した公益財団法人日本モンキーセンターの「スローロリス保全センター」のウェブサイトに掲載してもらいました。短いバージョンと長いバージョンがあります。
今回はその背景や,研究の裏側について少しだけ書きたいと思います。
ピグミースローロリスは絶滅のおそれが高い動物です。ワシントン条約で原則的に商取引が禁止されていますが,最近でも日本の空港等で密輸摘発された事例があります。日本モンキーセンターではこれまでにこうした密輸摘発個体を複数受け入れてきました。このように密輸摘発された個体は,動物園などに引き取られることになりますが,突然やってくる密輸摘発個体のためのスペースがあるわけではありません。そこでそうしたスローロリスの飼育環境を改善する取組を2015年くらいから開始しました(開始当時の私は京都大学で勤務していました)。2016年には「スローロリス保全センター」という非公開の施設もできました(このあたりの詳しい話は,保全センターのウェブサイトをご覧ください)。
予算がかなり限られていたので,ケージも手作り。改修もせっせと自分たちで行いました。最初はスローロリスについてわからない中で開始したので,なかなかうまくいかないこともありました。また,チンパンジーなど昼行性の動物と違って,暗視カメラなど機材の力を借りなければ夜行性のスローロリスの観察はできません。初めて続きの試行錯誤の中で,スローロリスたちが仲良くなり,研究計画で予測していたよりも色々な社会行動(図)を見せてくれるようになっていく姿を見て,驚きながらも安堵したことを覚えています。
どのような状況であれ、動物たちの暮らしをサポートできるように色々な工夫をしていくのが動物に関わるわたしたちの大切なお仕事です。しかし今回の取組やそれに伴う成果は違法取引がなければ,なかったものでもあります。日本の中でこうした問題が起きている事実をきちんと受け止めながら,これから先も関係者とともに考えながら活動を進めて行きたいと思います。
また研究の仕事にとっては,見つけた現象が再現性・一般性の高いものなのかどうかということが重要になるので,今回のように研究の「問い」に合わせて京都市動物園の動物たちだけでなく,いろいろなところで観察させてもらったり,糞や毛などのサンプルをいただいたり,外部機関と共同で研究を行うこともあります。そうした研究の成果について,ホームページでも更新しています。また,イベント等でもご報告していければと思います。引き続きどうぞよろしくお願いします!
山梨