生き物・学び・研究センターブログ
2020年7月1日(水)ニイニはベッド職人
ニイニが2歳の頃から始まった,チンパンジーベッド作りプロジェクト,それから5年が経過して,ニイニもこれだけ大きくなりました。
(開始時は今のロジャーと同じ年…でも顔はやっぱりニイニ!)
ニイニが野生由来の母親のようなベッドを作れるようになるのか,もしそうならばどのようなプロセスなのか?それを含んだ論文がついに,国際誌に掲載されました…!要旨はこちらから御覧ください。
野生ではすべての大型類人猿が当たり前のように行う行動ですが,20‐30mという高い木の上で行われることの多いベッド作りがどのように習得されるのかあまりよくわかっていません。そこで,京都市動物園では試行錯誤しながら,夜寝る前に枝でベッドを作れるようなセッティングを作り,そこから歴代の飼育担当者が枝を定期的に導入し,その様子をモニタリングするということを続けてきました。
3年間の観察の中で,ニイニは最初は単純な動作しか示しませんでしたが,徐々にコイコのような複雑な行動を示すようになりました。仕上げに小さな葉っぱを乗せたりする様子は,野生チンパンジーさながらのベッド職人です。
ただし,今回枝を折りこんで複雑なベッドを作ったのは,コイコとニイニだけでした。ジェームスやタカシは,枝にはまったく興味を示さず(それどころか避けていた),ローラは枝は使うけれども単純なテクニックしか示しませんでした。(でも枝はワラや消防ホースなど人工的な物に比べてふかふかにするのは難しいので飼育下生まれの中では,ローラはすごいと思います。)ニイニはコイコの行動を観察している様子が見られましたが,おとなたちは特にそんなこともありませんでした。
また、京都市動物園のチンパンジーに加えて,54個体(合わせて59個体)の飼育チンパンジーの行動も観察しました。すると,すべての個体で,ベッドを作る行動に関連した何かはしていることもわかりました。たとえば,自分の周りに物を置く…などです。技術を習得するには後天的な環境が大事ですが,チンパンジーはベッド作りに関する強いモチベーションを持っていることもわかりました。なので,ジェームスはこれから技術が高くなることはないけれども,彼の好みに合わせた素材も準備することが大切だと思います…。
チンパンジーは比較的幼少期が長い動物ではありますが,それでも7‐8歳で性成熟を迎えておとなになっていきます。それまでの数年間は本当に大切で,その時期が過ぎてしまうと習得できないことがあります。ベッドを作るという行動はそのひとつの例です。
飼育環境では,本来の生息地では当たり前にあるものが足りていなくて,我々が気づかないうちに失われていってしまうものがあるのだと思っています。チンパンジーらしい細やかな技術や,野生で育つときには当たり前のように経験していることを,継承していけるように努力を続けていきたいと思います。
最近では,ロジャーもコイコやニイニがベッドを作るのを見たり,自分でも作ろうしたりするところが何度か確認されています。ロジャーがニイニに続いてベッド職人になってくれることを期待しています。
なお,今回の取組は今年4月に出版した動物園の本の中でも紹介していますので,よかったらそちらも御覧ください!
山梨裕美