生き物・学び・研究センターブログ

2020年4月23日(木)チンパンジーの兄弟

前回,チンパンジーのお勉強の様子をお知らせしたときに,彼らにとってリンゴ片やニンジン片の「ごほうび」にはどんな意味があるの? という質問をいただきました。

これまでもお伝えしてきたように,京都市動物園で実施している「お勉強」は,参加してくれている個体の「やる気」次第です。そのやる気はどこから引き出されるかというと,大人については,やはり「ごほうび」です。大人になると,無駄なことはしなくなります。あくまでごほうび目当てに勉強をして,それなりに満足すると,自分からやめて,部屋を出ていきます。
一方,子どもはというと,ごほうび目当てだけでやっているようには見えないことがよくあります。
とくに,勉強のはじめの頃,全然わからない大人の問題に,ごほうびなんて全然もらえなくても何度も挑戦しています。
それともうひとつ,ごほうびが目当てなら,他の個体と一緒に来るより,ひとりでやった方が自分の取り分が増えるのに,わざわざ他の個体と一緒にやりたがるのを見ると,ごほうび以外の要因もありそうです。

今回は,そんな時期のロジャーと,お兄さんのニイニの話。
兄弟ふたりで勉強部屋にやってきた。


大人たちは来ていないので,3台のモニターが使える状態。
ニイニとロジャーは両端に分かれて勉強を始めました。


ロジャーが単独で問題に向かえる機会が少ないので,この機会にロジャー用に「1,2」の問題を出してみました。


ロジャーはまだ1と2の区別がついているわけではありません。
このときは,先に2にふれてしまったので,画面が消えてしまいました。

そばでは,ニイニがロジャーの様子を見ています。
これは,ロジャーをやさしく見守っているわけではなく,ごほうびが出てきたら,横取りしてやろうと狙っているのです。

このときはなんにも出てこなかったので,自分の問題に戻ります。
ロジャーの方は,「あれ? 消えちゃった」という感じでしょうか。


再び問題に挑戦。


今回は「せいかい!(正解)」
先に1にさわると,1が消えて,2だけが残り,その2に触れると正解にたどり着きます。

このときは,幸いニイニがそばにいなかったので,ごほうびもロジャーのものになりました。

ロジャーをクローズアップすると,ちゃんと人差し指をのばして,どちらかの数字をさわろうとしているのがわかります。何度もやっているうちに,数字の形を見分けることができるようになり,やがて正解にいたる順番があることを理解していきます。

それまでに,どれだけかかるかは,本人次第。ロジャーはまだ1歳,そんなに根気もつづかないので,気長に待ってあげてください。

一方,ニイニはというと,空いている2台を独占状態。2種類の問題をだしているので,交互に問題を解いていました。


勉強部屋のチンパンジーたちを見ていると,毎回,何かしら面白いことをしてくれています。
成長でも,失敗でも,意地悪でも,ケンカでも,群れで暮らすチンパンジーだからこそ見られることで,環境はとても人工的ですが,野生本来の世界でも,彼らはいろんなことを考えて,さまざまなことをしているのだろうと思わせてくれます。

休園中で以前のような頻度ではできませんが,また次の機会にあったことも,お知らせしたいと思います。お楽しみに。


田中正之