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2021年2月15日(月)獣医室だより100 アジアゾウの耳の貫通創

昨年の夏,春美カムパートが,左耳に大きな傷を作って帰ってきました。
写真ではとても小さく感じますが,これでも約3cmの幅があります。

消毒と抗生剤の塗布を行ったのですが,なかなか傷が塞がりませんでした。
やがて膿が出始め,傷口が熱を持つようになります。

受傷後10日,膿の付着が見られます。
膿は非常に粘り気があり,落とすのに時間がかかります。
傷口を治癒させるためには膿を落とすのが原則。
消毒薬に浸した歯ブラシを使い,傷口の汚れごと毎日除去します。
なお,滅菌歯ブラシによる傷口の汚れの除去は,人間でも一般的に行われている治療のようです。

貫通創ができてから14日後。
感染が止まり,膿が少なくなってきました。
傷の両側から肉芽が形成され始めています。
この時点でゾウに詳しい他園の獣医師に相談したところ,傷口の内側に向かって治癒が進むため,なかなか閉鎖しないとお返事をいただきました。
そこで,治癒を促進させる治療に切り替えます。
皮下組織に切開を加えて新鮮創にし,毎日組織増殖促進剤を塗布しました。
痛がらないよう表面麻酔をするなどの対策を用意しましたが,何よりカムパート自身がよく頑張ってくれました。


2箇月後の傷の様子。
小さな穴が残っていますが,おおむね治癒しています。
現在,穴が小さくならないか経過を観察している状態です。

土佐