生き物・学び・研究センターブログ
2017年10月30日(月)なぜおとなになっても遊ぶのか?
新しい論文が出ました!(詳しくはこちら)今回は『おとな同士の社会的な遊び』をテーマにおこなった研究成果についてかいつまんでご紹介します!
わたしたち人間も含む多くの動物は幼いころには頻繁に遊びます。しかしおとなになっていくにつれて,遊ぶ頻度は少なくなっていくのが通常です。ただし,中にはおとなになっても遊んでいるのが確認される種もいます。人間やわたしたちに近縁なボノボがその例です(Hare and Yamamoto, 2015)。一方チンパンジーはボノボにとても近い動物ですが,逆におとなになるとあまり遊ばなくなると言われています。
なぜこのようなことになっているのでしょうか?
わたしたちは熊本サンクチュアリのチンパンジー37個体(9歳以上のオス17個体・メス20個体)を対象におとな同士の遊び行動を約5か月にわたり観察しました。実は熊本サンクチュアリのチンパンジーはそういった過去言われてきたようなチンパンジー像とは異なり,かなり頻繁に遊んでいるのを見かけていました。そこで,どのような状況・関係性で遊びが増加するのか?ということを調べてみることにしました。
調べてみると,いくつかのことがあきらかとなりました。熊本サンクチュアリには,他の日本の動物園などでは見られないオスだけの集団が存在します。オス・メス混合集団に比べて,オスだけの集団では遊び行動が増加していることがあきらかになりました。オス・メス混合集団ではほとんど遊びは見られませんでしたが,見られた遊びはほとんどがオスを含むものでした。また,遊びが夕食前の緊張が高まるタイミングで増加していたことから,オス同士の緊張解消に役に立っている可能性が考えられました。
では,遊びは仲の良い個体同士がおこなうのでしょうか?
チンパンジーにはさまざまな社会交渉がみられますが,そのうちのひとつに毛づくろい(グルーミング)があります。オスだけの集団で,相互毛づくろい(お互いが毛づくろいしあう)は,調べてみるとケンカの頻度と負の相関があり,ケンカを直接しあわない仲の良いペアによくみられることがわかりました。一方で,遊び行動はケンカをよくするペアでも頻繁に観察され,相互毛づくろいとは負の相関を示しました。つまり,相互毛づくろいを頻繁にする仲良し同士はほとんど遊んでおらず,逆に相互毛づくろいをほとんどしないような個体のほうがよく遊んでいたのです。
さて,これらのことを総合して考えてみると,どうもおとな同士の社会的な遊びは単純に『楽しい』だけのものではないのかもしれません。野生チンパンジーは群れの仲間全員と常に一緒にいるわけではないので,仲の悪い個体同士は,お互いなるべく会わないようにすることが可能です。一方で飼育下では個体間の距離が短くなるため,時にそれほど好きでない相手とも会わなければならないこともあります。熊本サンクチュアリでは,社会関係を考慮しながら群れのメンバーを入れ替えることでチンパンジーたちの社会的なストレスを減らせるように工夫をしています。それでも時にはチンパンジーたちは少し苦手な個体とも一緒に過ごさざるを得ないことが野生よりも多くなります。そんな相手との間に緊張が高まったときに,遊ぶことで解消をしているのかもしれません。(ちなみにこれはオス同士のお話。メス同士はほとんど遊びません。そしてメス同士にも仲の良い・悪いはあって,時にケンカが勃発します。だけど一緒にいる時の雰囲気はオスとは全然違います。メス同士のことはなかなかわかりにくい…。^^;)
この結果は,おとな同士の遊びの進化や動物福祉の評価方法を考えるうえで重要な結果だと考えられます。わたしはこれまで動物の社会性についてや,社会性を考慮した飼育管理に関する研究をおこなってきました。これからもチンパンジーやロリスをはじめ,さまざまな動物種を対象に研究に取り組んでいきたいと思います。
山梨 裕美
生き物・学び・研究センター
主席研究員