飼育員ブログブログ

2024年9月13日(金)【論文紹介】アジアゾウにササをあげてみた!Part2

以前の飼育員ブログにてご紹介した、
京都市動物園にラオスから4頭のアジアゾウが来て、
少し時間が経った頃に実施した研究の続きです。



前回ご紹介した研究では、
エンリッチメントとして導入したササ給与は、
アジアゾウの栄養状態に対して大きな問題を与えなかった、
という結果が得られました。


研究当時の一コマ。これはアジアゾウ舎のどこでしょう??
(職員の制服を見て懐かしいと感じる方もいるかもしれません)


ではアジアゾウの行動に対してはどうだったのでしょう。

以前の飼育員ブログでもご紹介したように、
ササは、ある程度丈夫な植物なので、
食べるのに時間がかかりますし、折ったり投げたりなど出来るため、
食料としてだけでなく遊び道具としても有用です。

実際に給与したタイミングのアジアゾウたちを観察した結果、
ササを給与したほうが乾草を給与した場合と比べて、採食にかかる時間が長くなりました。

これはやはり、
乾草が、食べやすく、エネルギー価が高い(そこまで多量には給与できない)のに対して、
ササは、食べにくく、エネルギー価が低い(乾草よりも多めに給与可能)ことが、
大きく影響していたと考えられます。

採食にかかる時間が長くなると、その分ヒマな時間が短くなるので、
ゾウたちの栄養状態に大きな影響を及ぼさない程度までは、
ササを積極的に利用することができそうです!


研究当時の一コマ。足を段差にかけて、高い場所にあるササを取っています。
(いまのゾウたちは当時と比べてかなり大きくなりました。
同じようにササを与えても違う取り方をするかもしれません。)


・・・といった内容の論文が2024年8月に公開されました。

上記の内容以外にも、
ビデオ記録を用いた夜間の行動観察から、
今後の飼育管理における課題なども挙げられました。

ご興味がある方は、下記リンク先にて、ぜひご覧ください。
https://www.jzar.org/jzar/article/view/686
(無料で読めます。英語でまとめられた内容ですが、一部日本語で執筆されています。)


アジアゾウ担当 星野


↓論文の概要
Yukari Kashima, Masato Yayota, Yuma Tsuchiya, Yukihiro Shiota. 2024. Bamboo feeding induces complex browsing activity and increases foraging time in zoo-kept Asian elephants (Elephas maximus). Animal Behaviour and Management, 60(3), 55-65.

↓論文要旨
タケの給餌による採食エンリッチメントが動物園で飼育されているアジアゾウ(Elephas maximus)の行動発現割合に及ぼす効果を検証した。4頭のアジアゾウ(雄1頭および雌3頭、年齢4〜8歳)を、慣行給餌区(CON区)とタケ給餌区(BAM区:慣行給餌区のスーダングラス乾草を2.5 kg原物/頭を4.5 kg原物/頭のタケに置き換え)に割振った。屋外展示場に放飼した昼間(9:30 am-3:30 pm)の行動は、目視により2分間隔の瞬間サンプリングで記録し、屋内飼育房に収容した夜間(3:30 pm-9:30 am)の行動観察はビデオカメラを用いて行い、5分間隔の瞬間サンプリングで記録した。日中のBAM区のゾウは、CON区のゾウより採食の発現割合が多く、これは乾草をタケに置き換えることで給与量が増えたことと、タケの採食には葉や稈を操作する時間が必要なことが影響していた。日中の常同歩行は、いずれの処理区でも観察されなかった。日中におけるタケの給餌は、夜間の行動発現割合には影響しなかった。夜間では、処理区によらず常同歩行の発現割合が15.6~22.3%を占め、とくに早朝での発現割合が高かった。以上から、乾草をタケに置き換えることで採食時間が増加することが示唆された。また、常同歩行は早朝に発現割合が高かったことから、採食エンリッチメントは早朝に実施した方が効果的な可能性を示唆している。