飼育員ブログブログ

2024年2月2日(金)高齢個体の展示による保全教育の効果を実証! -ツシマヤマネコのみやこの展示が論文になりました-

現在京都市動物園では、来園者の皆さんに絶滅危惧種であるツシマヤマネコを知って、
そして、さらに保全活動に協力してもらうために、
2012年から環境省の保全事業に参画し、
ツシマヤマネコの飼育展示と非公開施設での繁殖を行っております。

現在は、すでに高齢で繁殖プログラムから外れているオスのキイチを飼育展示しています。
国内絶滅危惧種の飼育展示による来園者への啓発効果については、
例えばニホンライチョウで研究が行われ、飼育する動物園周辺の市民への啓発効果があることが調査されています(Fukanoら, 2021)。
そこで、高齢個体の展示及び情報発信が、
来園者のツシマヤマネコを守るための具体的な保全行動の認知や参加(保全教育)に
つながっている可能性を明らかにするため調査を行いました。

今回、保全教育の研究として焦点を当てたのは、先代のツシマヤマネコ、メスの「みやこ」です。
「みやこ」は2012年3月から2020年9月に当園で飼育展示しており、18歳で腎不全により亡くなりました。
 
特に高齢の年代になってからは、患っていた腎不全のケアの内容を中心に、Instagramなどでお知らせをしており、
死亡時にも多くのコメントをいただいておりました。
また、最晩年時には、ケアの情報発信に合わせて、保全活動への参加の呼びかけも行っておりました。

今回の研究では、来園者の皆さんが、高齢ツシマヤマネコの展示の情報発信により、
ツシマヤマネコの保全活動に協力した経験があるのか、アンケートにより関連を調査しました。
アンケートは「みやこ」の死亡時から1-3ヶ月後に来園者とSNSの閲覧者を対象に行いました。
(ご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。)

まず、「みやこ」の展示から来園者の皆さんが何を感じたのか、自由記述で回答してもらいました。
回答内容を解析すると(テキストマイニングという分析手法による、「共起ネットワーク図」)、

「みやこ」のケアから、生きる大変さ、命の大切さを知った(左上の薄緑01グループ)、
「みやこ」の展示をきっかけに絶滅危惧種であるツシマヤマネコを知った(左の薄黄色02グループ)、
保護活動や保全活動を知った(右赤04グループ、中央青05グループ)、
対馬に実際に行った(右下薄黄緑07グループ)といった回答を得ることができました。

この回答は、以前京都市動物園で飼育していた高齢ライオン「ナイル」の結果と同じところ、違うところがありました。
例えば、「命の大切さを学ぶ」「感謝したい」といった高齢個体に対する情意を表現する記述内容は、
「ナイル」の記述と同様の傾向にあったと考えられました。
一方で、「ツシマヤマネコを知るきっかけ」「保全活動」「現地に行く」といった記述は、
「ナイル」の研究には見られていませんでした。
つまりは、絶滅危惧種であるツシマヤマネコの背景を踏まえた来園者の回答を得ることができたと考えられました。
特に、「知るきっかけになった」とする回答は、先に調査されているFukanoら(2021)の研究と同様の結果を示した可能性がありました。

では、具体的にどんな保全行動を来園者の方がとったのか、別の項目の回答を調査してみると、
「ツシマヤマネコ米の購入(32名)」
「保全団体のグッズ購入(13名)」
「保全団体への寄付(8名)」
「保全団体への参加(8名)」(重複込み)
という結果となりました。
こういった保全行動に参加した来園者の性質を調べてみると、

特に「動物園のSNSを毎回閲覧していたグループ」と「現在動物を飼育しているグループ」が
こういった保全行動の参加と関連があることが明らかとなりました。
つまり、SNSを通じて「みやこ」のケアに関心のあった来園者層が保全活動に参加した可能性が考えられました。
さらに、そもそも「ネコ」の仲間であるという種としての特徴から、
ペットを飼育している来園者が保全活動に参加していた、という可能性が考えられました。

このように、高齢個体のケアといった情報は特定の来園者層の関心を高め、
特に絶滅危惧種という背景のある動物種においては、
保全のメッセージを情報発信に載せることにより、
それらが来園者の保全活動の協力につながると考えられました。
これは、日本の動物園における保全教育戦略の一つになることも考えられ、
動物園で飼育する動物に対する来園者の関心を高め、
さらに来園者に保全に協力してもらうための有効な手段と考えられました。

長くなりましたが、詳細に興味のある方は、こちらのサイトからご覧ください(英語ですが、フリーで読めます)。
研究にご協力いただいた皆様並びに晩年「みやこ」へ関心をお寄せ下さった皆様に、深く御礼を申し上げます。

Okabe K., Kawamura A., & Matsunaga M. (2024). Do social media users’ interactions with the elderly Tsushima leopard cat at Kyoto City Zoo translate into changes in conservation behaviour? Journal of Zoo and Aquarium Research, 12(1), 1–8.
The exhibition of elderly animals in Japan has the potential to promote the formation of personal connections between visitors and animals and behavioural change such as increased conservation behaviour. This study focused on social media and investigated whether the connection between elderly animals (Tsushima leopard cat Prionailurus bengalensis euptilurus; an endangered species in Japan, individual died in September 2020) and visitors is related to self-reported conservation behaviour of visitors and social media users at Kyoto City Zoo. Information about the care of elderly animals was disseminated on several social media sites at least once a month for about six months before the death of the leopard cat. The information also included messages about conservation, especially after the death of the target animal. Surveys were conducted 1−3 months after the individual’s death. The questionnaire contained both closed-response items (e.g., gender, age, frequency of zoo visits, experience with animal keeping and frequency of browsing zoo’s social media) and open-ended questions (e.g., ‘types of conservation behaviour’, ‘lifestyle changes’ and ‘impressions of the target animal’). Responses (n=180) indicate respondents’ interest in conservation activities and formation of personal connections with the target animal. Involvement in conservation activities is related to animal keeping status and social media use. Specifically, social media dissemination of information contributed to forming a connection between viewers and the animal. These results suggest that elderly animal exhibits with conservation messages are effective in encouraging pet owners and social media users to form personal connections with target animals and to participate in conservation activities.