飼育員ブログブログ
2023年6月7日(水)【論文】キリンが樹皮を食べる樹木を与えると、幸福度が上がる!?!?
以前、報告させていただいた「キリンの樹皮採食」についての研究の
続きが新たに論文になりましたので、お知らせします。
キリンの食べ物といえば…「葉っぱ」! ですね。
しかし、多くの木が冬には枯れてしまうため、
世界中の動物園で乾草など代わりの餌をキリンに与えています。
上記の論文では、給餌している樹皮や小枝といった
枝の葉以外の部分がキリンの採食を支えていることが明らかになりました。
当園では、その動物本来の行動を引き出すために、複数の種類の枝を与えています。
(春から秋にかけては、ケヤキ、サクラ、アキニレ、シラカシ、エノキ、ニセアカシア…
落葉後は、トウネズミモチ、ヤマモモ、シラカシ、ニセアカシア)
ちなみに、野生のキリンの食性は、葉以外にも樹皮や花などにわたり、意外にも多様です。
それを踏まえて、じゃあ動物園で、樹種ごとに樹種の食べ方に違いがあるのか?
つまり、【樹皮に好き嫌いがあるのか】を今回は調査しました。
さて、実際にキリンの葉・枝・樹皮の食べ方を観察してみると、
舌を使って葉を食べる行動
と、樹木の採食について多様な行動が見られました。
その行動を踏まえて、樹種ごとに樹皮の食べ方を比較すると?
明らかに、樹種ごとで違いがありました。
つまり、キリンは樹皮に好き嫌いがあることが分かりました。
さらに、樹種ごとでキリンが食べる時間が違うのか(1kg当たり)を調べてみると、
食べている時間の長さも樹種ごとで大きく違うことが分かりました。
さらに、この樹皮の食べ方の違いと、食べている時間の長さの関係性を比べてみると…
樹皮を食べている樹種ほど、より長い時間食べていることが分かりました。
つまり、樹皮を食べる樹種を与えると、より長く採食行動を引き出すことができると考えられました。
ところで、【キリンの幸福度が上がる】ってどういうことやねん?というと、
動物園の動物の福祉を向上させる(≒ 環境エンリッチメントの実践)目標は、複数あります。
ちなみに、過去の論文では
・問題のある行動が減少する、
・活動性が増加する、
・動物本来の行動を増やす、
・利用する空間が増える、
・攻撃性が減少する、
・行動の選択肢または種類が増える、
・社会性が増加する、
・繁殖が成功する、 といった目標が挙げられています。
今回の調査では、多様な樹種をキリンに与えることによって、
【動物本来の行動を増やす】、【行動の選択や多様性を広げる】といった目標に
沿った効果が得られていると考えられました。
つまり、それらの効果が得られたということは、
キリンの福祉が向上 ≒ 幸福度が上がる!?!? と考えられました。
詳しい結果は、以下のリンクを参照ください(日本語 : 無料で読めます)。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jabm/59/1/59_1/_article/-char/ja
研究に当たり、ご協力いただいた皆様に深く感謝いたします。
日本在来樹木の樹皮に対するキリンの選好性と採食行動の発現量の検討
岡部光太1 、福泉洋樹1、河村あゆみ1、加瀬ちひろ2、植竹勝治2
1京都市動物園、 2麻布大学獣医学部
キリンはアフリカ原産の樹葉採食者である。先行研究では樹葉だけでなく、樹皮も採食するとされる
が、日本在来樹種の樹皮への選好性の有無は明らかではない。そこで本研究では飼育下キリンを対象に
行動観察を行い、選好性を調査した。調査期間を景観樹の状態からLT 期(5-8 月)とEE 期(10-2 月)
に分け、観察を行った。与えた樹種は、シラカシ、サクラ、ニセアカシア、アキニレ、トウネズミモチ、
ヤマモモ、エノキ(京都府内山林より伐採)であった。調査の結果、ニセアカシア、アキニレは他の樹
種に比べ樹皮採食比が高かった(P < 0.05 および0.01)。一方、エノキ、シラカシは他の樹種に比べ有
意に樹皮採食比が低かった(P < 0.05 および0.01)。つまり、選好性があると考えられた。樹皮採食比
と採食行動発現スコア数には正の相関があり(rs = 0.56 および0.75, P < 0.01)、キリンの採食エンリッ
チメントにおいて、樹皮を利用する樹種の給餌は、種本来の行動の促進につながると考えられた。
キリン担当 オカベコウタ