飼育員ブログブログ

2023年5月25日(木)【論文紹介】アジアゾウにササをあげてみた!

これは、
京都市動物園にラオスから4頭のアジアゾウが来て、
少し時間が経った頃のお話・・・。


2016年のアジアゾウたち
(左から、カムパート・トンクン・トンカム)



草食動物であるアジアゾウは、野生の場合、一定量の葉っぱや枝を食べて生きています。
そこで動物園でも、重要な繊維源として、葉っぱや枝を与えることが重要だと考えられています。

近年では、エンリッチメントの一貫として、
ゾウに葉っぱや枝を与えている動物園が世界中で増えていますが、
使用する樹種の一つとしてササがあります。

ササは、日本の里山にもたくさん生育しており、
動物園で暮らすゾウたちの主食となる干し草と比べて、
タンパク質が少なく、繊維成分が多いです。

そのため、ササをたくさん与えると、
栄養過多になるリスクを軽減できますが、
消化不良を引き起こす可能性も挙げられます。


ササ



そこで2016年に京都市動物園では、
ラオスからやってきた4頭のアジアゾウに対して、
採食エンリッチメントとしてササを給与することで、
栄養状態に効果があるのか調査しました。

その結果、エンリッチメント導入前と比べて、
消化率(摂取した栄養素のうち消化できた量の割合)に変化はなく、
血液分析の結果からも異常は認められませんでした。



ゾウ舎グラウンドで給餌器に入れたササ



つまり、採食エンリッチメントとして導入したササの給与は、
アジアゾウに対して特に大きな効果を与えませんでした。

しかし見方を変えれば、特に大きな問題はなさそう、とも言えます。
ゾウたちの主食となる干し草は、バラバラ(あるいは粉々)になりやすいため、
食べやすいものの、散った粉末が食べられずに残りがちです。

一方、ササや枝は、ある程度丈夫なので、
食べるのに時間がかかりますし、折ったり投げたりなど出来るため、
食料としてだけでなく遊び道具としても有用です。

そんなササをゾウたちに与えても、健康状態に大きな影響はない、
ということが科学的に証明されました!!


ササを食べる2016年のトンカム


ササを食べる2016年のブンニュン



・・・といった内容の論文が2023年4月に公開されました。

ご興味がある方は、下記リンク先にて、ぜひご覧ください。
https://www.jzar.org/jzar/article/view/686
(内容は全て英語で執筆されています。無料で読めます。)



アジアゾウ担当 星野



↓論文の概要
Yuma Tsuchiya, Masato Yayota, Yukari Kashima, Yukihiro Shiota. 2023. Nutritional effect of feeding enrichment using bamboo Pleioblastus spp. in zoo-kept Asian elephants Elephas maximus. Journal of Zoo and Aquarium Research, 11(2), 267-273.

↓論文要旨(和訳)
多くの動物園では、ゾウへの給与飼料やエンリッチメントの道具として、枝葉などの粗飼料を使用している。その中でもメダケ属(Pleioblastus spp.)などのササは、草食動物への給与飼料として世界中で広く使用されている。ササに含まれる繊維成分は、飼育下ゾウの飼料消化率や栄養過多の軽減に有効である可能性がある。本研究では、ササの給餌がアジアゾウElephas maximusの栄養摂取量・消化率・血液性状に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。4歳から8歳のアジアゾウ4頭を2頭1組で飼育し、通常食(CON)またはササ入り食(BAM、1頭あたり4.5 kgのササを含む)を与えた。CONには、スーダングラス乾草、チモシー乾草、稲わら、イタリアンライグラス生草、ペレット、ニンジン、サツマイモ、蒸しジャガイモ、リンゴが含まれていた。BAMでは、乾物ベースで飼料の約20%を占めるスーダングラス乾草の一部をササ(Pleioblastus spp.)に置き換えた。乾物(DM)・粗タンパク質(CP)・中性デタージェント繊維(NDF)・酸性デタージェント繊維(ADF)の消化率は、2処理間で大きな差はなかった。また、血清中の総コレステロール・アルブミン・グルコース・Ca・Pなどの濃度にも差はなく、既報データの範囲内にあった。これらの結果から、ササの給餌は飼育下アジアゾウの栄養状態や健康に悪影響を与えないことが示唆された。