飼育員ブログブログ

2023年1月4日(水)[論文]キリンはお熱いのがお好き? -キリンにお湯を飲ませてみた件-

当園で実施した飼育下キリンの福祉に関する研究が、
新しく論文として発表されましたので、お知らせします。

今まで、キリンの採食エンリッチメントについて、
いくつか研究論文を挙げてみましたが…   
どうしても冬の飼育環境には多くの課題があります。

その筆頭が、寒さです。
キリンはアフリカのサバンナに生息する動物なので、
寒い環境で飼育するには何らかのケアが必要になります。
寒空の中、キリンを観察していた私は、
キリンのある行動の変化に気が付きました。
「…あれ?水飲んでなくね?」
言われてみれば、当たり前なのですが、
寒いところで冷たい水を置いたところで、飲む回数が減るのは当然です。

「じゃあ,お湯飲ませりゃええやん。」

そんなことを思いつくのは簡単なのですが、
キリンが飲むような大量のお湯が簡単に手に入るわけ…

…あった。

なんとまぁ、キリンのお隣には、温かい水(20℃くらい)が張られています。
当園に来られたことがある方はお分かりかと思いますが、キリン舎の隣にはカバ舎があります。

不幸中の幸いと申しますか、突如現れた一筋の光明。
キリン担当にさっそく相談し、
コンテナを借りて、キリンとカバの接するフェンスに取り付けます。

そして、カバ舎のお湯と水を混ぜて、概ね37℃に調整します。
「まー、ゆーてそんながっつり飲むわけ…」

「…いや、めちゃめちゃ飲むやん。」


飲水量を測ってみたら、3頭7時間で約70Lを飲んでいました。
(ちなみに過去、観察されているキリンの飲水量よりも多い結果でした)

さらに、お湯の【ある時】と【ない時】の飲水行動を比較してみると、差は歴然。

お湯を設置すると、飲水回数自体が増える個体と冷水を飲む回数が減る個体がいました。
さらに、時間帯ごとで比較すると、

お湯を投入してすぐの時間帯(9:00と13:00)の飲水回数が増加しました。
つまり、キリンはお湯に選好性を持つ、つまり好きなのかもしれないということが
明らかになりました。
(ちなみに、同じ反芻動物のウシは暑い環境であってもお湯を好むらしいです。)

ただし、今回の研究では【ない時】に冷水の飲水量を記録していなかったので、
(グラウンドの池から飲む場合など、推定が難しい部分もありましたが、)
実際に飲水量が増えたかどうかは、上記だけのデータだけではわかりませんでした。
(もちろん、1回当たりの飲水量が違う可能性は十分あります。)
そこで、これらの飲水行動の変化が、他の行動に影響を与えていないかも調べてみました。

すると、お湯の【ある時】と【ない時】では、採食行動が増加する個体がいました。

ウシの研究では、採食量と飲水量には正の相関関係がある
(つまり、採食量が増えると飲水量が増える)とされており、
もしかすると、お湯が【ある時】には、キリンの飲水量が増加した可能性がありました。

…という内容の論文が昨年10月末に掲載されました。
(報告が遅くなってすいません。)

ご興味がある方は、下記リンクから、内容をご覧ください。
(フリーで読めます:英語)
https://www.jzar.org/jzar/article/view/669

研究に当たり、ご協力いただいた皆様に厚く御礼を申し上げます。
キリン担当     オカベコウタ

Okabe, K., Fukuizumi, H., Kawamura, A., Matsunaga, M., Kase, C*., & Uetake, K*. (2022).
Kyoto City Zoo, *Azabu Univercity
Giraffes like it hot? Research on giraffe drinking behaviour in response to warm water supply in a cold environment. Journal of Zoo and Aquarium Research10(4), 188-193.
動物園でキリンを寒い環境で飼育することは、キリンにとって負担になることがある。本研究では、通常の常温の飲水バケツに加え、飲料温水を供給し、寒冷環境下でのキリンの飼育の改善を目指した。観察は、2019-2021年の冬期(11月~3月)に京都市動物園で飼育されているキリン3頭を対象に114時間行い、対照期間と温水期間を交互に行った。相互影響を避けるために各期間の間は4日以上空けた。観察日数は、対照期間が10日、温水期間が9日であった。温水は約37℃に調整し、放飼場に設置した容器(高さ2m)内に入れた。行動観察は、瞬時サンプリング(採食、反芻、その他)と1-0サンプリング(枝採食、反芻、口腔行動、飲水:いずれも1分間隔で実施)を同時に行った。飲水回数の総計は有意に増加し、温水期には冷水を飲む回数が有意に減少した。また、特に温水供給直後の時間帯(9:00と13:00)にキリンの飲水行動が増加した。3頭の7時間あたりの平均温水消費量は69.16 ± 9.54 Lだった。樹葉採食はコントロール期間と温水期間で有意差は見られなかった。しかし、3頭のキリンのうち2頭では、温水期間中に採食行動の有意な増加または増加傾向が見られた。このように、寒冷環境下で温水を供給することにより、キリンの飲水量が増加する可能性があり、キリンに温水を供給することは、本種の寒冷による悪影響を改善する可能性がある。