飼育員ブログブログ

2022年10月22日(土)ありがとう、ホンホン。

2022年10月19日、国内で飼育している最後のゴーラル、ホンホンが左下顎の上皮性悪性腫瘍のため亡くなりました。
悪性腫瘍があるとわかってから、別れが近いことは覚悟していましたが、私にとっても突然の別れとなりました。

「おはよう、ホンホン、入るね~」
グラウンドの奥に凛とした姿で立ち、私の声に反応していましたが、最近すぐ食べに来ていた餌を取りに来ませんでした。
10時過ぎからグラウンドで座ったまま動かなくなりました。
その後、徐々にホンホンが旅立つ準備をしているのを感じました。
声をかけても頭を起こせなくなり、体を触っても反応がありませんでした。
このとき既に意識はほとんどなく、お昼前に亡くなりました。

悪性腫瘍が見つかり、外科手術が出来ないと分かってから、厳しい闘病生活になることは予想していましたが、ホンホンも最期は本当に辛かったと思います。
動物の痛みや痒みなどはどう頑張ってもわからないのが苦しいところですが、噛み合わない顎で最後まで食べ、生きる姿を見せてくれたことに感謝しかありません。
最期まで立ち、最期まで食べる、生きることに真っ直ぐな姿に担当の私が何度も励まされたように思います。

4月に担当になってすぐ悪性腫瘍が見つかったので、私の持っている写真はほとんど顎が腫れている写真。
ホンホンが少しでも食べられるように、少しでも楽に生活できるように、穏やかに生活できるように考えるのが私の役目だと思ってホンホンと向き合ってきました。

一時は全く食べないこともあり、いよいよかなと覚悟したこともありました。
根菜類を蒸したものに変えたり、切り方を工夫してみたり、葉っぱをちぎってみたり、スムージーを作ってみたり、リンゴをすりおろしてみたり、ペレットの種類を増やしてみたり。
そんなことをしていたら、再度よく食べてくれるようになりました。

食べても食べても痩せていく。きっと腫瘍に栄養を取られていたのだと思います。
葉っぱを食べることに貪欲で、口に葉っぱがついたまま取れないことも多く、このまま葉っぱが詰まってしまうのではないかと何度も心配するほど、元気な時よりたくさん食べていました。

展示についても悩みました。
よだれが止まらない時、顎がズレてきた時、腫瘍が自壊した時、見た目が日々変化する中でこのまま展示するのか何度も悩みました。
でもありのままのホンホンを見てもらいたかった。
最期まで慣れたグラウンドで過ごしてもらいたいと思って、ホンホンを見てきました。

日々病状が変化するので、ホンホンのありのままの姿をInstagramにあげていました。
最後に腫瘍の状態をみたら、よくこんな状態で食べることができたなと思うくらいでした。
凛と立ち、亡くなる前日の治療の際は獣医に怒り、とにかく逞しかったです。

私が撮った最後の一枚。この時も口から草が出ています。

ホンホンへ
もう痛くないかな?もう痒くないかな?もう噛みやすい顎になったかな?
いつかこの日が来るのは覚悟していたけれど、まだとても寂しいです。
つい餌を用意しそうになります。隣のシカ舎を掃除しながら、あなたのいた東屋を覗いてしまいます。私が見ると食べるのをやめてこちらを見ていたね。

最期まで力のある限り立ち、餌を食べ、力強く生きる姿を見せてくれてありがとう。
逞しくて、凛々しくて、美しい姿でした。

ホンホンにはいろいろなことを教えてもらいました。この経験を必ず次に繋げます。
どうか安らかに。本当にありがとう。

ホンホンを見守って下さった皆様、本当にありがとうございました。
ホンホンが亡くなり、日本にはゴーラルがいなくなりましたが、どうかゴーラルのホンホンが生きたことを覚えておいて頂けたら嬉しいです。

ゴーラル担当:櫻井

――――――
ここから先は安楽死を選択した経緯と解剖時にわかったことをお伝えしたいと思います。

ありのまま伝えるのが正しいのかどうかわかりません。
きっとたくさんのご意見があると思いますが、一番近くでホンホンを見てきた者として、ホンホンが生きた証を正確に伝えたいと思いました。
詳細をお伝えしますので、苦手な方は、以下は読まないで下さい。

○安楽死に至った経緯について
19日9時頃、自分の足でしっかり立っていましたが、最近すぐ食べに来る餌を置いても食べに来ませんでした。少し嫌な予感がしました。
10時45分頃、ホンホンのことが気になり、他の作業のキリがついたところで見に行くとグラウンドで座っていました。いつもと違うのは頭を地面につけていたこと。目つきがしっかりしていなかったこと。私が近づいても起き上がりませんでした。この時は辛うじて目で私を追っていました。
11時20分頃、他の作業を終えて再度ホンホンの元へ。今度は近付いても頭を起こせませんでした。体を触ってみましたが、ほとんど反応がありませんでした。目の焦点もあっていませんでした。
ここで、QOL評価を実施。私も担当獣医も当園のQOL評価シートで5項目(1~5段階評価)すべてにおいて1をつける状態でした。
ホンホンの命はあと少し。数分~数時間かなと思いました。
免疫力が急に下がったようでした。腫瘍の数日前に自壊した箇所からすごい匂いがしました。少し前から気になっていましたが、今までで一番きつい匂いでした。
腫瘍と体に虫が集まってきていました。
ここで安楽死を選択しました。苦しい重い決断でした。
このときすでにほとんど意識はなかったように思います。

一番お伝えしたいのは、ホンホンはほぼ天寿を全うしたということ。最期まで一生懸命生きたということです。
だったら安楽死を選ばずに最期まで…というご意見もあると思いますが、私はホンホンは頑張りすぎなくらい頑張ったと思いました。

○解剖結果について
当園では亡くなった個体は解剖を行い、死亡理由を明らかにすることでその死を今後の飼育管理に活かします。

解剖の結果、ホンホンの死因は左下顎の上皮性悪性腫瘍と診断されました。
腫瘍は自壊した箇所から真下に私の指がすっぽり入るほど膿んでおり、上顎の真ん中まで広がり口腔内を圧迫していました。
歯は一部摩耗していたもののしっかりありました。
腫瘍は下顎の骨を溶かしており、下顎の骨は一部無くなっていました。
前日にあげた枝、ペレットが胃にありました。こんな状態でよく食べてくれたと思います。
体に脂肪はほとんどなく、あれだけ食べても腫瘍に栄養を取られていたことが伺えました。

最期まで力の限り生き抜いたホンホン、本当にありがとう。
ホンホンの全てを読んで知って下さった皆様、ありがとうございました。