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2022年2月13日(日)【論文】キリンも暑い?? -キリンの樹木採食エンリッチメントと気温,景観樹の関係-

当園で実施しているキリンへの樹木採食エンリッチメントについての研究が,
この度新しく論文として海外の学術誌に受理,出版されましたのでお知らせします。

キリンを飼育する動物園で,飼育環境の改善のために
よく行われている採食エンリッチメントが,「樹木採食エンリッチメント」です。
(エンリッチメントってなに??って方は,こちらをご覧ください。)

海外の飼育マニュアルでは,種本来の採食行動を引き出すために推奨されているもので
(Burgess, 2004;European Association of Zoos and Aquaria, 2006),
樹木採食エンリッチメントの有無は,キリンが柵を舐める行動などに影響があるとされています
(ただし,飼育園館へのアンケート調査による; Bashaw et al., 2001)。
しかしながら,この樹木採食エンリッチメントが,
実際にキリンの舐める行動の低減に効果があるのかを経時的に調べた研究は実はありません。
そしてその効果は,気温・湿度や景観樹の落葉といった周囲の環境の変化に
影響を受けるのかといった,基礎的な研究はされてきませんでした。
当園では以前,大学と連携し,樹木給与エンリッチメントについての行動研究を実施しました。
しかし…同じ量の樹木を与えているのに,
冬のみ舐める行動が増える…という事象がみられておりました。

そこで,今回当園で飼育するキリン3頭を対象に,
2019年5月から2020年2月まで長期間の行動観察を行い(合計270時間),
樹木採食エンリッチメントと周囲の変化(気温・湿度,景観樹)との関連を調査しました。

ポイント 1 枝葉を食べる行動と舐める行動の関係
1年を通して観察した結果,枝葉を食べる行動が増えると舐める行動が減る結果となりました。
特に,フェンスの隙間から,舌を伸ばして景観樹の葉を食べる行動との関連が見られました。
つまりは,景観樹の存在がキリンの種本来の行動である舌を使う行動を引き出すのに有効であり,
舐める行動の抑制に効果があることが考えられました。
一方で,落葉すると,(個体によりますが)乾草などの採食割合が増え,
それと共に,(個体によりますが)舐める行動が増える結果となりました。
つまり,特に葉のなくなる秋~冬は樹木採食エンリッチメントが,
より重要となる可能性が考えられました。

ポイント 2 気温・湿度と採食行動
今回,キリンの行動を観察するにあたり,
活動(採食,移動,探査,社会行動,口の行動,その他)と非活動(休息,反芻)に分けました。
それらの行動と気温・湿度(今回は乳牛などで使われる温湿度指数:THIを活用)との関係を調べました。
すると,THIが上昇する(つまり蒸し暑くなる)とともに,活動は低下し,
非活動が増加する結果となりました。
特に酷暑下(THIが80以上)では,採食が有意に低下する個体もいました。
野生のキリンの観察では,日中森林地帯に移動し休息する個体群がいることが明らかとなっています
(Saito and Idani, 2020)。
「キリンは暑いところの動物だから,暑くても大丈夫!」…ではなく,
キリンも夏場には日陰で休める場所を必要としていると考えられました。

長くなりましたが,もしかすると今回の結果は,
皆さんが思っていたキリンの姿と違った部分があったかも??しれません。
(例えば,キリンは暑さは大丈夫とか,景観樹を必死に食べているのがかわいそうとか)
普段皆さんが何気なく見ているキリンの展示の印象に変化があったら嬉しいです。
                     元キリン担当  オカベコウタ

Kota Okabe, Hiroki Fukuizumi, Ayumi Kawamura, Chihiro Kase, Katsuji Uetake (2022).
Effects of browsing enrichment associated with the temperature–humidity index and landscaping trees in giraffes (Giraffa camelopardalis reticulata). Journal of Thermal Biology, 103190. https://doi.org/10.1016/j.jtherbio.2022.103190
Abstract:
Enclosure environments for captive giraffes can be improved by promoting species-specific behaviors and extending foraging behavior. To date, however, the effects of climatic (temperature–humidity index, THI) and environmental factors (landscaping trees) on the enrichment of captive settings have not been studied. Therefore, the present study explored the effects of browsing enrichment on the licking behavior of captive giraffes. From May 2019 to February 2020, three giraffes in the Kyoto City Zoo, Japan, were observed for 270 h over two consecutive seasons (pre- and post-deciduous). Overall, branch foraging behavior and licking behavior were weakly and negatively correlated. In the pre-deciduous period, THI was significantly and negatively correlated with giraffe activity, and some individuals exhibited significantly reduced foraging behavior. Therefore, browsing enrichment under extreme heat may not improve giraffe rearing environments. Moreover, in the post-deciduous period, with decreased availability of leaves on landscaping trees, the non-branch foraging behavior of giraffes was significantly increased, with a corresponding significant increase in licking behavior. Therefore, landscaping trees affect the foraging behavior of captive giraffes.