飼育員ブログブログ

2021年11月9日(火)ゲンキの健康診断

※採血の写真や,傷,血の付いた抜歯後の歯の写真があります。

11月1日にゲンキの健康診断を行いました。今回は,身体測定,採血,心電図,胸部レントゲンを行いました。そして,おそらく悪いところがあると思われる歯のチェックと治療を行うことが1番の目的でした。

今回初めて,トレーニングでゲンキに自ら肩を柵に寄せてもらい,担当者が注射を打つという方法で,鎮静剤と麻酔薬の投与を行いました。このために,今年の4月から正担当・副担当・担当係長の3人で,毎週休園日の朝にゲンキとキンタロウの分離,そしてゲンキへの注射のトレーニングを繰り返してきました。

前日の夕方からゲンキが絶飲食だったことで,ゴリラたちが何か異変を察知して警戒してしまう可能性ももちろんありましたが,朝のゴリラたちの様子は普段とあまり変わらず,息子たちも朝から元気いっぱいで遊んでいました。

トレーニングの甲斐もあって,当日ゲンキはすごく落ち着いた状態で注射を打つことができました。1本目の鎮静剤を打って数分で目に見えて効果があらわれ,2本目の麻酔薬を打って数分で座ったまま眠りました。キンタロウもいつも以上といえるほどに落ち着いて隣の部屋で餌をもらっていました。

その後は,同じチームの飼育員や獣医師総出でゲンキを運び出し,健康診断が始まりました。ゲンキと完全に分離され,姿が見えなくなるとキンタロウは大騒ぎでしたが,少ししてモモタロウ,ゲンタロウと合流すると落ち着いて静かに3人で過ごしてくれていました。


麻酔のかかったゲンキをネットでくるんで運び,健康診断用の台に乗せます。

心臓のレントゲンを撮るためのプレートをゲンキの背中側にセットしています。

採血の様子。

心配していた歯は,右下顎の奥歯が1本虫歯でボロボロになっており,グラグラしていたため抜歯しました。また左下顎の奥歯も1本,生え方がおかしくてとがった部分が頬の内側に当たっていたので,少し丸めてもらいました。他の歯は生え方がおかしいところはあったものの,今のところグラついたりという異常はありませんでした。

窒息しないように舌は横に出しておき,口が閉じないように固定して,歯のチェックを行います。

抜いたゲンキの奥歯。かなりもろくなって割れていたため,1本の歯を4回に分けてきれいに抜歯しました。

もちろんこれで虫歯が完全に治ったわけではなく,見えていない部分が悪くなっていることもあると思います。しかし,とりあえず可能な限りで悪い部分を取り除けたので,これで口周りに膿が溜まることが少しでも減ればと思っています。

ゴリラたちはヒトのように何回にも分けて虫歯の治療をしたり,簡単に歯を抜いたりすることができません。だからこそ,好きだからと言って甘い果物を与えすぎないことが本当に本当に大切なのです。今は正しい食生活をしていても,ヒトの無知のために昔甘いものをたくさん与えてしまったことが,いつまでもゲンキの健康を蝕んでしまっています。時間を戻すことはできないので,これからもゲンキと共に虫歯と付き合っていき,その時に可能な限りの治療を続けていくしかありません。

また,今回は左肘にあった傷の治療も行いました。健康診断の1週間前,収容時になかなか部屋に入らなかったモモタロウの隙をついてゲンキが餌のある部屋に先に飛び込み,怒ったモモタロウに飛び掛かられて嚙まれてしまいました。確保したキャベツをなかなかゲンキが手放さなかったため,モモタロウにいつもより激しめに怒られてしまいました…そしてその傷を自分でかなりいじってしまい,傷が広がって中心部は化膿していました。消毒などの手当てをして,現在は抗生剤の投薬をしており,順調に治ってきています。

傷の様子。上が肘側,下が手首側です。上側の傷が深めで少し膿んでいました。

治療後の傷。きれいに洗浄し,薬を塗りました。

このようにして健康診断は1時間半ほどで無事終了しました。以前は麻酔時に呼吸が止まることもあったそうですが,今回はそのようなこともなく終えることができました。覚醒の際も,以前はまだ覚醒しきっていない状態で高い場所に登ろうとしたり,落ち着かない様子だったということで,心配しながら観察していました。しかし,今回は麻酔をかける際に以前のように興奮することもなく,ゲンキ自身があまり嫌な経験をしたと思っていなかったからか,覚醒の際もとても落ち着いていました。まだ体にふらつきがあるのに起き上がったり座ってみようとしたりすることはありましたが,興奮する様子はなく,キンタロウが傍にいないとわかっても取り乱すことはありませんでした。様子を見ながら,飲み物や食べ物を少しずつ与えて,問題なく飲み込めているかを確認し,お昼すぎには完全に覚醒しました。グラウンドからキンタロウの声が聞こえると,そちらの方を気にする様子も見られるようになり,男子3人も少し不安そうにはしているものの落ち着いていたので,13時ごろにいつも通りの全員同居になりました。

今回,血液等の検査結果ではすべて大きな異常がなく,ゲンキは健康体ということがわかりました。それを証明するかのように,健康診断が終わった日の夕方以降はいつものようにモリモリごはんを食べていました。また,血液検査で性ホルモンの上昇は見られず,発情回帰はまだ先だということもわかりました。絶飲食で少し痩せてしまったかと心配しましたが,4日後の夕方に体重が測れた時にはすっかり元の体重に戻っていました(*^-^*)

実は担当者にとって,ゴリラの健康診断は今回が初めての経験でした。大事なことでやらなければいけないと思っているものの,麻酔をかけての健康診断は担当者や獣医師にとって,とても緊張のする,気が重いものです。万が一何か起きたら…とか,普段のトレーニングのように動いてくれなかったら…とか,不安になるとキリがありません。今回無事に健康診断を終えられて,本当にほっとしています。朝の作業の忙しい時間を調整して健康診断に協力してくれた同じチームのメンバーや上司,獣医師たちにはもちろんのこと,普段通りに分離や注射に臨んでくれ,担当者の予想以上に落ち着いていてくれたゴリラたちには本当に感謝しかありません。

ゲンキも少しずつゴリラにとって「高齢」といわれる年齢に近づいてきています。これからもより一層気を付けて体調管理を行っていきたいと思っています。そして,歯の治療にはどうしても麻酔をかける必要がありますが,それ以外の健康状態のチェックはなるべくハズバンダリートレーニングでできるように,これからも頑張っていきたいと思っています。

ゴリラ担当 安井