飼育員ブログブログ

2021年11月2日(火)ライオン「ナイル」のアンケートが論文になりました。2


以前,ライオンのナイルの展示について行ったアンケートが
論文になったことをお知らせしました。

この度,別の研究が国際誌に掲載されました。
今回の内容は,高齢個体の展示に対する来園者の態度と行動についての研究です。

高齢動物の展示は,日本において多くの来園者を惹きつけます。
しかし,高齢動物の展示が来園者の態度や行動に与える影響を調査した研究は
現在のところありません。
そこで,ナイルの追悼講演会及びガイドに参加された来園者を対象に
アンケートを実施し,それらを調査しました。

まずは,来園者の「ナイルの展示を見た印象」についての自由記述を分析しました。


(Okabe & Matsunaga, 2021 を改変,KH-coderによる自由記述の文章の分析,
 色分けされたグループは,記述された単語のつながり,
 つまりは文章を示しています。)
すると,ナイルの展示を通じて「自らの人生や生き方を振り返った」と記述した群,
「人の死との比較」をした群,「命の大切さや扱い方を考えた」群,
「生きる糧となった(元気になった)とした」群が大まかに現れました。

次に,ナイルの展示が来園者の生活に与えた影響について自由記述から分析しました。

(Okabe & Matsunaga, 2021 を改変)
「動物園に通うようになった」「ライオンや動物園の本を読むようになった」
「飼育員になりたい」といった記述があり,
割合的には少数ですが,動物園や動物に主体的に関わろうとする行動が表現されていました。
また,「自分の飼っているイヌやネコとの向き合い方」を書かれる群もあり,
動物の飼育をしている群に,何らかの影響を与えた可能性も考えられました。

ナイルの看取りにあたり,このような啓発の看板を掲出しており,
来園者の人生観や動物との付き合い方に影響を与えたのかもしれません。

ところで,なぜ「行動の変化」に着目したのかというと,
近年の動物園での保全教育の流れは,
保全に向けた来園者の行動を促すことに注目する流れになっています。
しかし,ただ知識を与えることだけでは,行動の変化につながりません。
(例えば,動物に興味のない人にいくら保全についての知識を与えても,
 正直にそれにつながる生活を始めるか…というとそういうわけにはいきません。)

では,どうすればいいのか??というと,知識に加えて注目されているのが,
来園者が個人的に動物と築く「つながり」です。
今回のナイルの高齢化と死という展示は,多くの来園者の関心を集め,
そして上記のようなつながり(例えば,自らの人生を振り返る,死や生き方と比較する)を
形成していました。
つまり,高齢個体の展示にはそういった来園者と動物のつながりを形成する効果があり,
行動変容を促す来園者層の形成に有効であると考えられました。

死に対する価値観は皆さん違います。
そして,「動物の高齢化と死」に注目するのは,日本人独特の価値観なのかもしれません。
当時,ナイルの飼育管理には,文化的な価値観の違い(?)もあり,
実際海外からクレームを複数頂いたことがありました。

そういった背景を踏まえて,
こういった動物と来園者のつながり方があるということを,
海外に示す必要があると感じています。
今回の論文で一石を投じるとまではさすがにいかないと思いますが,
意思表明につながると良いなと考えます。
(ただし,動物福祉の配慮や安楽死についてはまた別の議論が必要です…。)

長文となりましたが,ここまでお読みいただきありがとうございました。

なお,今回の論文は(英語ですが)フリーで読めますので,ご興味のある方は,
こちらのサイトにアクセスしてみてください。

Okabe, K., & Matsunaga, M. (2021). Impacts of an elderly lion Panthera leo exhibition at Kyoto City Zoo, Japan, on the perceptions, attitude, and behaviours of zoo enthusiasts. Journal of Zoo and Aquarium Research9(4), 266–272.
The exhibition of elderly animals in Japanese zoos is likely to attract the attention of visitors due to the cultural concept of ‘Aigo’. Although it is important for visitors to form a personal connection with animals in order to promote visitors’ behavioural change, the impact of exhibiting elderly animals on zoo visitors is not clear. Therefore, this study surveyed zoo visitors about the exhibit of an elderly lion Panthera leo (25 years old, died of natural causes in January 2021) in the Kyoto City Zoo. In order to investigate the impacts of the end-of-life care and mourning of this animal on visitors, a questionnaire was distributed to visitors who participated in the memorial events held after the animal’s death. The questionnaire contained both closed-response items (gender, age, frequency, duration of zoo visits, experience with animal keeping and experience with bereavement) and open-ended questions (impressions about the exhibition and changes in lifestyle). χ2 tests were used to associate behavioural changes and multiple-choice items, and text mining was used to analyse free text. The responses to the questionnaire (n=140) indicated that the respondents found the exhibit to be an opportunity for self-contemplation and reflection on life. There was a significant relationship between frequently visiting the zoo and reporting a change in behaviour. A small number of self-reports of behavioural attempts to become actively involved with the zoo and animals were described. These findings indicate that the exhibition of elderly animals and the death of an animal provide opportunities for zoo visitors to form a personal connection with animals, which is effective in promoting behaviour change. In order to capitalise on the interest of these visitors, it is important for zoos to proactively communicate messages such as conservation activities.
                  元ライオン担当 松ぞうじゃない方