飼育員ブログブログ
2021年8月19日(木)ライオン「ナイル」のアンケートが論文になりました。1
当園で飼育していたライオンのスーパーおじいさん「ナイル」が亡くなって,
すでに1年半が過ぎました。
ご記憶の方がどれほどいらっしゃるかわかりませんが,
当時,ナイルの献花台と講演会,追悼ガイドを行った際に,
私(元ライオン担当,松ぞうじゃない方)たっての希望で,
高齢動物の死生観に関するアンケートを行わせていただきました。
ご協力いただいた皆様,本当にありがとうございました。
この時のアンケートの結果を
この度論文として報告いたしました。
この論文で着目した内容は「安楽死(殺)に対する来園者の意識」です。
近年の動物園では飼育技術の向上や獣医療の発達により,
自然界の平均年齢を【大きく】超える個体が
飼育されるようになってきています。
この先もおばあさん,おじいさんと呼ばれる個体の
飼育事例が見られることになる(実際,当園に何頭もいますが…)一方で,
【安楽死(殺)の判断】は飼育管理者,獣医師で悩みの種になるところです。
【終生飼育】をすることは,動物園動物の飼育の基本となっていますが,
【教育施設である動物園】において,
来園者への【死や老いの伝え方】は,難しいテーマと考えます。
動物の超高齢化に伴い,増大する飼育管理者への負担(物理的・精神的)や
来園者への情報提供といった様々な問題が生じます。
そして,QoL(Quolity of Life;生活の質)の維持ができない時には,
時として,安楽死(殺)を選択せざるを得ないことももちろんあります。
今回は,安楽死(殺)に対する来園者の意識を
アンケートから調査させていただきました。
ざっくりと内容をご紹介させていただきますと,
今回,回答者の中心となったのは,「ナイル」のファン(と思われる来園者)でした。
ご存じの通り,今回「ナイル」については安楽死(殺)を行いませんでしたが,
多くの方はこれに賛同する結果となりました。
この賛否には【来園頻度】や【安楽死への価値観】との関連が考えられました。
来園頻度の多い群や【安楽死中立】群・【動物の安楽死に反対】群は,
自由記述で【ナイル】の記述が増える傾向にありました。
これは,【ナイル】への思い入れの強さとも言えるかもしれません。
また,【動物の安楽死に反対】群では,
【最後まで看取りたい(自然死を尊重したい)】という記述をする傾向にありました。
動物に対する死生観について,
全員に統一的な意識を求めることは正直難しいことだと思います。
今回の結果では,【安楽死(殺)を行うべきであった】という記述は見られませんでしたが,
【死や老いの伝え方】,そして【安楽死(殺)】を
どうしていけばいいのかは今後も議論が必要であると思います。
今回のアンケート結果からは,来園者への理解を促すため,
【日ごろの情報発信】や【客観的な(科学的な)QoLの評価】が,
重要なのでは…と結論付けました。
年内に出せるかはわかりませんが,
別の論文でも今回のアンケートの結果を報告したい…と思っておりますので,
ご興味がある方は,気長にお待ちいただければと思います。
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岡部光太,松永雅之 (2021)
高齢個体安楽死に対する動物園ファンの意識 ―京都市動物園のライオン展示を例に―.
ヒトと動物の関係学会誌(59), 51-57.
動物園動物の飼育技術の向上に伴い、自然界での平均を大きく超える高齢個体が珍しくなくなってい
る。そして、状況によっては安楽死を考えなければならない。教育施設である動物園において、来園
者は外せない要素である。動物のQoL(生活の質)が低下していく中で、動物の管理者は来園者に対
しどう向き合えばいいのか。その判断材料として、高齢ライオンの展示についてアンケート調査を行
った。主たる回答者は来園頻度が高く、また40 代以上の女性となった。本事例において、当該個体は
安楽死を行なわなかったが、それに賛同する意見が多かった。その意思決定については、来園頻度と
安楽死の価値観に有意な関係が見られた。また、日本人の持つ殺生を嫌う気質もアンケートに表出し
ていた。高齢化や安楽死についての来園者の理解を求める手段として、科学的なQoL の評価や日常的
な情報発信の重要性が考えられた。
[キーワード:動物園、高齢個体、動物福祉、動物愛護、安楽殺]
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元ライオン担当,松ぞうじゃない方