飼育員ブログブログ

2020年6月8日(月)獣医室だより064 ニホンイシガメの甲羅

職場の先達から学ぶ知識や技術はとても大切だと思います。
特に最初の数年間に学んだことが,その後の仕事の進め方を形作るように思います。
私も,何人もの先輩獣医に教えてもらいながら,治療について学びました。
今回は,そのうちのおひとりが残してくださったものの話です。

現在,水禽舎の池に7匹のニホンイシガメがいます。
甲羅干しをしていた2匹,どこが違うかお判りでしょうか。

拡大した写真。
左の個体の甲羅の辺縁がポイントです。

 

右側から見るとわかりやすいですね。
2枚目の写真では左,3枚目の写真では上にいる個体は,甲羅の右側が少し歪んでいます。
これは,甲羅の傷が治癒した痕跡です。

カメの甲羅は死んだ組織ではなく,皮膚と骨から構成される生きた組織。
このため,甲羅の損傷が発生した場合,感染のコントロールを行いながら治癒を目指します。
ただ,水に入るヌマガメ類,特に彼らの甲羅腹側の傷は,水に浸かるため感染の管理が難しくなります。

このニホンイシガメは,一昨年先輩獣医が治療したもの。
5月頃に甲羅が壊死したため,入院室に移動して治療を開始しました。
当初患部を防水性のシートで覆って水槽で飼育していたのですが,シートが何度もはがれたため瞬間接着剤で固定することに。
それでも水の侵入を完全に防ぐことはできず,何度か壊死組織を除去しながら,抗生剤の投与で感染を管理しました。
患部の治癒を促すために水槽の水を抜いて飼育したところ,食欲不振になってしまいました。
脱水にならないよう,補液と強制給餌を行いながら管理を続けて約2箇月。
自力で餌を食べ始めるようになると同時に,傷も再生し始めます。
2箇月半ごろからは再生した部分に甲羅の模様が見られ始めました。
最終的に,およそ半年かけて完全に治癒しています。
 

完治時の写真。
まだ,治った部分がはっきりとわかります。
ここに至るまでの間,毎日遅くまで調べ物をされていた彼女の姿を思い出します。

この先輩から,徹底的に調べ,打てる手をすべて打つ姿勢を学びました。
現在は京都市動物園を卒業され,新たな動物園で活躍されています。
またいつかお会いして,いろいろと相談に乗っていただこうと思っています。

土佐