飼育員ブログブログ

2015年4月21日(火)京都市動物園で行われている研究の紹介

京都市動物園では,下記の助成金の支援を受け,さまざまな研究を推進しています。それぞれについて,ご紹介します。(平成27年4月20日 現在)

日本学術振興会 科学研究費補助金

基盤研究(C) ニシゴリラにおける比較認知発達科学的研究

研究代表者: 田中正之(生き物・学び・研究センター長/京都大学野生動物研究センター・特任教授)
研究期間:平成26年度~28年度
研究目的(概要)
本研究は、大型類人猿の中でも、認知研究の面で比較的例の少ないゴリラを対象として、国内では例のないゴリラの認知発達科学的研究を行うことを目的とする。対象とするのは京都市動物園で飼育されているニシゴリラ3個体(モモタロウ,ゲンキ,ゲンタロウ)である。同動物園では、平成26年4月に新しい施設「ゴリラのおうち~樹林のすみか~」が完成し、新しい環境でのゴリラ飼育を開始する。今後、次子の繁殖も期待され、第1子の発達とともに、第2子の妊娠・出産を本研究期間中に観察することが期待できる。また、新施設ではタッチモニター等の認知課題用の装置を設置する部屋が設けられ、継続的に学習課題をおこなうことができる。これらの機会を捉えて、日本におけるゴリラ認知研究の基盤を作るとともに、動物園を研究・教育の場として発展させていきたい。
方法としては,「ゴリラのおうち」の「多目的室」に、すでに同動物園「チンパンジー学習室」で設置しているのと同様のタッチモニターを用いた認知検査システムを導入する。これらのシステムをもって、26年度にはすでにチンパンジー、テナガザル、マンドリルで実施しているアラビア数系列の課題を訓練する。27年度以降は視覚探索課題など多様な課題の訓練も開始し,比較研究を行う予定である。

 

 

奨励研究 日本国内における成長期のアジアゾウの栄養管理、消化機能および発育評価について

研究代表者: 塩田幸弘(種の保存展示課・獣医師)
研究期間:平成27年度
研究目的(概要)
アジアゾウは絶滅の危機に瀕しており、IUCNレッドリストでは絶滅危惧種に指定され、保全活動が必要な最重要種に位置づけられている。日本国内においては、現在78頭が飼育されているが、日本国内での繁殖例は少なく、これまでの報告例はわずか12例のみである。また、世界的にも、野生では40,000〜50,000頭程度しか生息しておらず、その数は減少傾向にある。そんな中、来年日本とラオスの外交関係樹立60周年を迎えるにあたり、今年11月に両国友好のシンボルとしてラオスから京都市動物園にアジアゾウ4頭が寄贈された。この事業では、「アジアゾウ繁殖プロジェクト」を掲げ、京都市動物園、京都大学野生動物研究センターおよびラオス国立大学の3者で、ゾウの繁殖研究に係る学術交流MOUを締結した。
今回、ラオスから寄贈されたゾウは、いずれも性成熟前の仔ゾウである。ゾウの繁殖を目指すにあたり、仔ゾウの管理では、将来繁殖しうる健康な個体に育つよう、適切な発育環境を整えることが重要となる。そこで最も重要となるのが、適切な発育のための栄養管理である。
 ゾウの栄養管理については、いまだ不明な点が多く、管理基準の大半がウマの研究結果に基づく推定値である。近年の研究では、ゾウの消化機能は他種の動物と明らかに異なっており、ウマとの比較においても、餌の消化管通過時間は著しく短く、消化率が低いことが示唆されている。このため、ゾウの適切な栄養管理のためには、種固有の消化機能と栄養要求量の解明が必須である。ドイツやタイで関連する研究報告がなされているが、例数が少なく未だ不明な点が多いため、さらなる研究が必要である。また、仔ゾウの発育のための栄養学的知見はほとんど認められない。
 本研究では、消化試験を実施することで、ゾウの消化機能を解明する。また、発育状況を体格、体重および血液データから評価する。これらの結果から、ゾウの発育に必要な栄養要求量を考察するものである。この結果は、日本およびアジアにおける飼育下のアジアゾウの栄養管理の適正化および繁殖率の向上に大きく寄与し、絶滅の危機に瀕するゾウの保全に将来役立つものとなる。

奨励研究 グレビーシマウマのストレス要因の推定及びストレスと遺伝子多型の関連性の解析

研究代表者: 伊藤英之(種の保存展示課・獣医師)
研究期間:平成27年度
研究目的(概要)
グレビーシマウマ(Equus grevy)は乱獲等で個体数が減少し,IUCNレッドリストの絶滅危惧種,ワシントン条約の附属書I表に指定されている。日本国内においても20頭(2013年12月末時点)が飼育されているのみであり,早急な保全プログラムの作成が必要とされている。
 飼育下での希少動物の保全には,繁殖生理の解明,飼育環境の改善,遺伝的多様性の保全などの課題があるが,特に重要なのが本来の生息環境とは大きく異なる環境での個体群管理ということである。飼育下では,限られた生活空間,人間・他種との近接,工事等の騒音など特異的なストレス要因が存在する。これらの物理的・心理的ストレスは異常行動や繁殖率の低下など動物に大きな影響を与えることが知られている。そのため,個体のストレスレベルを継時的な測定は,ストレス要因の特定に有用であると考えられる。コルチゾルはストレスレベルを反映する生化学的指標とされ,近年,糞尿や唾液といった非侵襲的試料を用いたコルチゾル濃度の測定が広く使われるようになっている。
 また,動物のストレスに対する感受性は個体により大きく異なり,遺伝的要因の関与が示唆されている。各個体のストレスへの反応性の把握は,個体毎に適した飼育方法の開発に有用である。これまでにヒト,実験動物や家畜などにおいて遺伝子多型とストレス反応との関連性が報告されているが,グレビーシマウマを含めた希少ウマ科動物ではこれまでに報告がない。
 そこで本申請では,グレビーシマウマの飼育下個体群の保全に資することを目的に,国内飼育個体全頭を対象として,以下の2点について研究を行う。
1.糞中コルチゾール代謝物の測定及びストレス要因の特定する
2.ストレス反応関連遺伝子の解析を行い,コルチゾール濃度との関連性を解析する

 

 

 

笹川科学研究助成 実践研究部門

研究課題: 日本の絶滅危惧種ツシマヤマネコについて学ぶ,市民協働による複数の教育プログラムの開発及び実施

研究代表者: 岡部光太(種の保存展示課・畜水産技術者/学芸員)
研究期間:平成27年度
研究目的(概要)
 自然・環境教育は,間近で動物を観察できる動物園において重要な役割であり,特に子どもが自然と動物を「実感する」場所である。一方で日本に生息する動物は注目されず,ツシマヤマネコなど絶滅危惧種の存在自体よく知られていない実態がある。
 京都市動物園は,ツシマヤマネコの第二繁殖拠点としての繁殖事業を行っており,教育普及事業の一環として,2012年より継続的に「やまねこ博覧会」という活動を行っている。飼育員は担当動物ついて,実際に生息地へ動物を調査・観察しに行く機会はあまりないのが実情である。「野生への窓」である動物園が実際に野生を知らすためには,現地での調査に参加することも必要な段階にある。
 現在,新「京都市動物園構想」という整備事業を行っており,教育プログラムなどのソフト面の開発を行っている。動物園の来園者は多種多様であり,ニーズが非常に多様化してきている。それらに応えるべく動物園における教育普及のコンテンツの拡充をしていく必要があり,様々な形での情報発信を進めていく必要がある。
 「やまねこ博覧会」においては,子どもを惹きつけるコンテンツとして,「やまねこ人形劇」・「やまねこコンサート」のを実施し,結果,家族連れを中心にツシマヤマネコの普及活動を実施できた。しかし飼育の現場を日常的な業務として持つ職員の有志による活動では限界がある。そのため,市民協働の形での活動を模索したい。
 「やまねこ博覧会」を題材とし,現地でのNPO法人の調査への参加を通じ,現地の保護活動団体と地元京都の団体との活動を合わせた,複数の教育プログラムの開発及び実施を目的とする。

 

 

 

京都大学野生動物研究センター
共同利用・共同研究による助成

課題番号: 2015-(計画)2-9
研究代表者:河村あゆみ(種の保存展示課・畜水産技術者)
研究題目: トレーニングを利用したメスキリンの搾乳と乳成分の分析

課題番号: 2015-(計画)2-12
研究代表者:島田かなえ(種の保存展示課・畜水産技術者)
研究題目: テナガザルとマンドリルを対象としたハズバンダリートレーニングの実践と国内実施状況の調査

課題番号: 2015-(計画)2-13
研究代表者:荒蒔 祐輔(種の保存展示課・畜水産技術者)
研究題目: 飼育下のブラジルバクにおける授乳期間観察および発達の調査

課題番号: 2015-(計画)2-14
研究代表者:塩田 幸弘(種の保存展示課・畜水産技術者)
研究題目: アジアゾウにおける血中微量元素・ビタミン濃度と成長・疾病との関係解明による繁殖への取り組み

課題番号: 2015-(計画)2-15
研究代表者:米田 弘樹(種の保存展示課・畜水産技術者)
研究題目: アジアゾウ新規導入個体の動物園における行動レパートリー調査

課題番号: 2015-(計画)2-21
研究代表者:岡部 光太(種の保存展示課・畜水産技術者)
研究題目: 飼育下ネコ科動物における複数のエンリッチメントの検討

 

 

第26期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成
(公益財団法人自然保護助成基金)

研究課題:希少種イチモンジタナゴの飼育下繁殖と野生再導入を通した地域住民への環境教育
研究代表者:田中正之(生き物・学び・研究センター長)
研究実施者:釜鳴宏枝,高木直子(生き物・学び・研究センター)
研究機関:2015年10月~2016年9月
研究目的(概要)
 タナゴの一種イチモンジタナゴ(絶滅危惧IA類)は,本来琵琶湖で生息しているが環境の変化により確認が困難となっている。この種が琵琶湖疏水でつながる京都市動物園と近隣の平安神宮神苑で生息していることから,動物園における繁殖を試み,野生への再導入を目指す。また多くの市民が訪れる動物園の特性を活かし,平成27年夏にオープンする「京都の森」において,京都の身近で豊かな自然に関する啓発展示を行い,地域の自然環境保全へ貢献するために市民と共同で保全活動を行う。

守れ!イチモンジタナゴ!!プロジェクト
第一期 ①2016年1月23日(土)
      ②2016年2月27日(土)
      ③2016年3月26日(土)

第二期 ①2016年4月23日(土)
      ②2016年5月21日(土)
       ③2016年6月25日(土)

第三期 ①2016年7月23日(土)
      ②2016年8月27日(土)
         ③2016年9月24日(土)

 

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