研究生き物・学び・研究センター

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霊長類の知性に関する比較認知科学的研究

日本には霊長類研究の長い歴史があります。これは、人間がなぜ今のような知性をもち、今のような社会を築いてきたのかを探る、いわば「人間とは何か」という霊長類学の問いに多くの人々が関心をもち、研究を支持してきたことの表れと考えられるでしょう。特にチンパンジー研究に関しては、京都大学野生動物研究センターの「アイ・プロジェクト」と呼ばれる長期継続研究が今も続けられています。その一方で、その他の類人猿については、野生での調査研究は多いものの、実験室でコンピュータ制御による認知研究の例はほとんどありません。ゴリラ、オランウータンについては、動物園に飼育されている個体が国内にいる全ての個体であり、認知研究の対象とすることが困難でした。この研究は、国内で唯一のコンピュータ制御によるゴリラの認知研究が可能な京都市動物園において、同動物園飼育の霊長類3種(チンパンジー、シロテテナガザル、マンドリル)も含めた比較認知科学研究を発展させることを目的としています。これら4種の飼育下霊長類を対象として、京都市動物園ではアラビア数字の系列課題と、同課題を応用した記憶や推論に関する認知課題を行ってきました。これからも研究を進め、動物園で実施する認知研究として、動物福祉への観点も加え、来園者や市民に対する動物福祉の考え方の教育啓発にも役立てたいと思います

研究対象としている動物種

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チンパンジー、ゴリラ、シロテテナガザル、マンドリル

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動物福祉向上と環境保全に向けた研究

動物、特に野生動物を飼育するということには、大きな責任が伴っていると考えています。動物園にいる動物はほとんどが家畜化されていない動物で、野生ではそれぞれの種ごとに異なる環境に適応して暮らしています。動物たちはその環境に適応するためにそれぞれの動物が進化してきた過程で形態や行動、認知能力、それに伴う欲求を獲得してきました。そのため、それぞれ異なるニーズをもった動物たちに無理を強いずに人工的な環境で飼育をするのは本当に難しいことです。多くの野生動物種が絶滅の危機に瀕する中で、私たちが動物をあえて人工的な環境で飼育することの意義をきちんと考えなければなりません。またこうした背景の中、動物を飼育するうえでは、そうした歪みをなるべく減らし、動物たちが生き生きと快適に暮らせるように、動物福祉に配慮することは私たち動物園の義務です。

飼育動物を対象とした動物福祉科学

動物福祉に配慮し、動物が生き生きと暮らせるような環境を提供することは、動物園の活動全ての基盤となります。ただ難しいのは、動物福祉を考えるためには動物自身の視点を考える必要がある点です。どんなに長い間一緒に生活しても、異なる種を理解することには限界があります。そこで、科学的な手法をもとに動物のことを理解しながら、動物福祉を考えることが重要になります。私たちは動物福祉向上のために必要な基礎的・応用的な研究に取り組んでいます。現在、動物園やサンクチュアリなどの飼育環境で暮らす動物を対象に、動物の行動習得や環境エンリッチメント、社会行動、障害をもった動物のリハビリなどに関する行動学的研究や、動物のストレスに関する生理学的な研究などに取り組んでいます。現在ではチンパンジー、ゴリラ、アカゲザル、スローロリスなどの霊長類、トラやバク、ゾウなどを対象としています。こうした研究を通して、動物に関する理解を深めるとともに、私たち人と動物の関係について深く考えていきたいと思っています。

飼育動物を対象とした分子生物学的研究

動物の飼育管理や域外保全に貢献することを目標とした研究も行っています。分子生物学的な手法を用いて、飼育動物の遺伝的多様性や腸内細菌叢、表現型との関連を調べる研究を行っています。例えば、動物園で飼育されている動物の遺伝的多様性を保つことは、持続可能で健全な飼育個体群を保つために不可欠です。また、各遺伝子と行動などの表現型の関係を理解することは、動物に適した飼育管理方法を考えることに役立つと考えられます。現在、飼育下のグレビーシマウマを対象とした遺伝的多様性や、ツシマヤマネコの腸内細菌叢に関する研究、更にシマウマやマーモセットなどの性格に関連する遺伝子と表現型の関連を調べる行動遺伝学的研究などを行っています。

来園者の意識や行動に関する調査

動物園における教育活動の可能性を探るための来園者の意識・行動などに関する研究などに取り組んでいます。

研究対象としている動物種

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チンパンジー、ゴリラ、グレビーシマウマ、アジアゾウ、スローロリス、アカゲザル、ブラジルバクなど

連携研究

生き物・学び・研究センターでは、様々な大学と連携して研究を行っています。

京都大学、岐阜大学、東海大学、北里大学、大阪大学 など

また、生き物・学び・研究センターでは、大学等からの研究依頼を受け付けています。
研究計画をお送りいただけば、研究倫理面、科学的妥当性を審査の上、採択・不採択の御連絡をいたします。

詳しくは「調査研究を希望される方へ 」を御覧ください。

研究費

<科学研究費補助金>

研究代表者:伊藤英之
研究課題名:動物園でのデータサイエンス活用:絶滅の危機に瀕する動物の行動を分類し、保存する(若手研究)#22K14910, R4-6)
科学研究費助成事業データベースのページ

研究代表者:田中正之
研究課題名:動物園でのデータサイエンス活用:絶滅の危機に瀕する動物の行動を分類し、保存する(挑戦的研究(萌芽) #21K18387, R3-5)
科学研究費助成事業データベースのページ

研究代表者:工藤宏美
研究課題名:うるさい場所に慣れるか逃げるかー騒音がアオウミガメの性格分布に与える影響(基盤研究(C))#21K12324, R3-5)
科学研究費助成事業データベースのページ

研究代表者:荒蒔祐輔
研究課題名:飼育現場の声に基づく準間接飼育下ゾウのハズバンダリートレーニング法の改良(奨励研究 #21H04143, R3)
科学研究費助成事業データベースのページ

研究代表者:斎藤美保
研究課題名:多様な人間活動下におけるキリンとインパラの仔育て戦略の解明(若手研究 #20K20006, R2-4)(R3に大阪大学から移管、R4に京都大学へ移管)
科学研究費助成事業データベースのページ

研究代表者:櫻庭陽子
研究課題名:霊長類における身体障害個体に対する情動と社会関係:身体的ハンデは社会的ハンデ?(若手研究 #20K14275, R2-5)(R3以降は京都大学へ移管)
科学研究費助成事業データベースのページ

<そのほかの研究費>

環境研究総合推進費
研究分担者:伊藤英之  研究代表者:村山美穂(京都大学野生動物研究センター・教授)
研究課題名:生殖細胞を活用した絶滅危惧野生動物の生息域外保全 (サブテーマ1:絶滅危惧野生動物の繁殖に関わる基盤情報の整備)(4-2101, R3-5)

⼀般財団法⼈ 中辻創智社2021年度 研究費助成
研究代表者:山梨裕美
研究課題名「絶滅危惧種の⼼⾝の健康を評価するための⾏動モニタリング⼿法の開発」

サントリー文化財団2021年度 研究助成「学問の未来を拓く」
研究代表者:山梨裕美
研究課題名「動物の幸せの判断基準の多様性と一貫性:学術的議論から社会への応用まで」

<すでに研究期間の終了したもの>

研究代表者:伊藤英之
研究課題名:域内保全に向けたゲノムワイド・エピゲノム解析による希少動物の遺伝管理方法の確立(若手研究 #19K15861, H31-33)

研究分担者:田中正之
研究課題名:動物園等の自然科学系博物館のための映像アーカイブとその活用に関する研究(基盤研究(C) 19K01150, H31-33, 研究代表者:吉田信明(京都高度技術研究所・主任研究員))

研究代表者:山梨裕美
研究課題名:チンパンジーにおけるストレス長期化に関わる認知メカニズムの解明(若手研究B #17K17827, H29-32)

研究分担者:山梨裕美
研究課題名:他者の意図と感情の理解:進化における相同を類人猿に、相似をカラスに探る(基盤研究(B) 19H01772 H31-R2, 研究代表者:狩野文浩(京都大学高等研究院・准教授))

研究代表者:田中正之
研究課題名:動物園の比較認知科学~ゴリラの認知研究拠点として~(基盤研究(C) #17K00204, H29-31)

研究分担者:田中正之
研究課題名:心の自立性の獲得-環境から解放された心の進化と発達-(基盤研究(S) 16H06301, H28-32, 研究代表者:藤田和生(京都大学文学研究科・教授)) ウェブページはこちらを御覧ください(外部サイトへのリンクです)
研究課題名:野生の認知科学:こころの進化とその多様性の解明のための比較認知科学的アプローチ(基盤研究(S) 15H05709, H27-31, 研究代表者:友永雅己(京都大学霊長類研究所・教授))

2019年度笹川科学研究助成
研究代表者:櫻庭陽子
研究課題名「身体障害に対するチンパンジーとヒトの社会的態度の違いに関する研究」

研究成果

2022年度2021年度2020年度2019年度2018年度