生き物・学び・研究センターブログ

2020年10月13日(火)ある日の「お勉強」時間にて

今回は,ちょっと長い文章を書いてみました。

京都市動物園で続けている「お勉強」は,基本的に本人のやる気次第です。
「お勉強の時間」は決まっていますが,その時間にお勉強をしなければならないわけではありません。
基本のルールは,数字を順番にさわっていく問題に取り組んで,正解すれば,画面に「せいかい!〇(まる)」と出てきて,正解を表すチャイムが鳴って,リンゴかニンジンが1かけら(1辺1cmくらいのさいの目切り)をもらえる。それだけです。
勉強せずにごろごろしていても,二人で遊んでいても,叱られることはありません。

でも,してほしくないこと,してはいけないことはあります。
勉強部屋の中の物を壊したり,壊そうとすることなどです。

そんなとき,皆さんならどう対処しますか?

よいことをしたのならば,簡単です。ほめてあげればよい。
動物の場合,よく使うのは,普段はあげない好物の食べ物をあげたりします。
でも,悪いことをしたときは難しい。
よいことは何度やってくれてもいいので,そのたびに「ごほうび」をあげる機会があります。
動物の方は,一度では,何でごほうびをもらえたのかわからなくても,何度も繰り返しているうちにだんだんと気がついていきます。そして,行動は正確になっていきますし,特定の合図に結びつけば,指示にぴたりと従ってくれるように見えます。
これがいわゆる「正の強化トレーニング」です。

さて,話は戻って,「してはいけないこと」の場合どうすればよいか?
叱っても効果はありません。
してほしくないことをした直後に,かなり強い程度の罰(電気ショックや大音量で驚かせたり)を与えれば,一回限りで学習が成立することもありますが,それはよほどドンピシャのタイミングで罰を与えたとき。しかも,それでも何度か使っているうちに馴れが起こってしまい,もっと強度を上げないと効果がなくなったりします。

もちろん動物園ではそんなことはしません。
では,どうするか。。。離れたところから声で何度叱っても,何の効果もないことは想像できますね。

「正の強化トレーニング」のように,何度もやって学習させるわけにはいきません。
一度だって,してほしくないことなのですから。


(これは,してほしいことではないけど,してはいけないわけではありません。ちなみに,ロジャー君です。)

で,どうするか。
結論からいうと,効果的な手段はありません。

次善の策として,「してはいけないこと(物を壊すとか)」をしても,「何もいいことがない」という経験をさせることにしています。
それ以上,お勉強は続けられない。したがって,ごほうびももらえない。


チンパンジーは知性が高いので,いつもならもらえるリンゴやニンジンがもらえないことが,相対的,消極的な罰のように感じられるかもしれません。
そもそもめったにないことなので,ほとんど学習の機会もないのですが,ほんの少しでも効果があるかな,あればいいな,くらいに考えています。

さて,なぜ長々とこんなお話をしてきたかというと,今日の「お勉強の時間」,ニイニが,勉強用のモニターボックスにつながっている,自動給餌器から伸ばされたホースを,自分で枝を使って外してしまったのです。

枝を突っ込んで,ホースを外してしまったニイニ。


小さな破壊ですが,してほしくないことにはちがいないので,その後にごほうびをもらう機会をなくしました。



ホースがつながっていないので勉強で正解しても,ごほうびはニイニのところまで運ばれてきません。

ニイニはしかたなく,あきらめて立ち去りました。

少しは頭を冷やしてくれたら,とは思うけど,むりだろうな。。。


田中正之