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2021年3月28日(日)獣医室だより106 アジアゾウの投薬

1月の終わり,アジアゾウのトンクンの尾の皮膚が広範囲に脱落しました。
他の個体に噛まれたか,毛ごとむしられたものと思われます。

受傷当日の写真はかなり強烈なので,治療開始後数日の傷の様子。
傷口の徹底洗浄と消毒薬に漬け込んでの消毒を行ったのですが,感染が起こり亀裂の下から膿が出てきました。
この日から抗生剤の投与を行うことにします。

ゾウの専門書やウマの本から,投与できる薬を選びます。
アジアゾウへの抗生剤投与を行う際にネックになるのが投与量と価格。
体重3tのアジアゾウへ投与するとなると,大量の薬が必要になります。
例えばクロラムフェニコールという種類の錠剤を本の用量に従って投与すると,ヒト用の錠剤660錠を1日4回投与,一日当たり6万円を超える治療になります。
この例はさすがに極端ですが,いずれにしろ大量の薬を飲ませるのは大変ですし,継続して投与するためにも節約したいところ。
色々調べた末,他園のゾウに詳しい獣医師の資料に,比較的安価で投与量が少ない薬を見つけました。
詳しい投与内容を教えてもらって,この薬を使うことに。

さて,投与する薬が決まったら,次は食べてくれるかどうかの問題が。
アジアゾウは大変記憶力が良く,一度薬が嫌になると,投与方法を変えても全く薬を飲まなくなります。
トンクンの場合はどうなるかと不安に思いながら,リンゴに薬を仕込みました。


周囲の心配をよそに,何事もなく食べてくれたトンクン。
その後も安定して投薬することができました。

抗生剤の効果もあり,1箇月半後には傷もほとんど塞がりました。
膿も見られないため,現在経過観察中です。

なお,アジアゾウの膿はドロリと粘度が高く強烈な悪臭を放ちます。
化膿している場合に気づきやすくありがたいのですが,服や体につくとなかなか落ちません。
治療期間中は,しばらく獣医側の食欲が減退するのが困りものでした。

土佐