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生き物・学び・研究センター

京都新聞「現代のことば」に掲載されました。

以下の文章は,京都新聞 平成29年7月25日夕刊1面「現代のことば」で掲載されたものです。

「動物の福祉と保全を考える」                                                田中 正之
 今年の5月,(公社)日本動物園水族館協会(以下,日動水)の総会において,協会総裁の秋篠宮さまは,「今後も動物福祉や保全に力を入れた活動がさらに広がっていくことを期待している」と述べられた。これは京都市動物園を含む日動水に加盟する動物園に課された宿題である。
 ここで改めて「動物」にとっての「福祉」を考えたい。一言で動物と言っても,大きなゾウから,小さなネズミまで,さらには魚や昆虫も動物である。一生のほとんどを単独で暮らす動物もいれば,群れで暮らす動物もいる。群れの大きさ,社会の構造も種によってそれぞれ違う。すべての動物に一律に規格化された福祉を提供することは現実的ではない。
 動物を扱う現場で働く私たちにとって,福祉の対象は,自分たちが向き合っている動物である。まず何をすべきだろうか。第一にその動物を知らなければならない。どんな環境に暮らし,どんなものを食べ,どのような1日の過ごし方をしているのか。どんな社会で生きていくのか。現代では専門的な論文や書籍などの情報がインターネットによって容易に手に入る。それらの情報を集めることで,その動物種についての基礎知識を得ることができるだろう。
 改めて動物の福祉を考える。理想を言えば,子どもには子どものための,高齢個体には高齢者のための,障がいをもつ個体にはその個体に適した福祉がある。そのために私たちがすべきことは,自分たちが提供できる飼育環境の制約を考慮に入れながら,目の前の個体をより深く知ることだ。
 科学的な調査・研究の方法についての情報も,今ではインターネットから手に入る。それらを駆使して動物を研究し,適切な飼育管理に活かすことが,動物園では求められる。適切な飼育管理と,動物の福祉はほぼ同義といってよい。
 動物の情報を調べていく中で,本来の生息地において動物たちが置かれている状況もわかってくる。人間の経済活動の発展によって起こっている生息地の破壊,分断。そのために起こる人間との軋轢,密猟。今やほとんどの野生動物が絶滅の危機に瀕していることがわかってくる。
 今年の6月,京都市動物園では2年半前にやってきたゾウの故郷,ラオスから関係者を迎えた。子ゾウたちの視察目的だが,私たちはこの機会に動物園で講演会を開き,現地の状況,ラオス政府が行っている政策的な努力を彼らの口から語ってもらった。
 自然豊かな東南アジアの国でも,まさに前述の問題が起こっており,彼の国ではゾウが絶滅の危機にひんしているという。
 開発途上国の環境問題や,人間と野生動物との間で起こる軋轢については,ニュースでは知っていても,都会に住み,動物園を訪れる人にとっては,縁のない話かもしれない。そんな人たちが,動物園の動物を通じて,考え始めるきっかけになれば,その先には野生動物の保全につながるかもしれない。それも私たちの仕事だ。京都市動物園をそのような場にすべく,努めていきたい。(京都市動物園 生き物・学び・研究センター長)
(京都新聞社の許可を得て掲載)
 

 

以下の文章は,京都新聞 平成29年9月25日夕刊1面「現代のことば」で掲載されたものです。

「継続こそ力なり」                                                 田中 正之
 自分の仕事を聞かれて,「動物園で野生動物の研究をしています。」と答えると,多くの方が不思議な表情になる。思うに理由は二つありそうだ。
 そのひとつは,「動物園」と「野生動物の研究」がつながらないようだ。動物園にもヤギやヒツジ,ロバなどの家畜動物はいる。しかし,動物園の動物と聞いて,皆さんが思い浮かべるのはライオンやキリン,ゾウ,ゴリラなどの野生動物で,動物園は野生動物を飼育している。飼育するだけではなく,野生で絶滅の危機にある希少動物を繁殖させ,飼育下(動物園)でその動物種を維持していく使命がある。そのためにはその動物について詳しく知る必要があり,それが研究につながっている。
 「野生動物のことを知りたければ,野生の環境に行かないとわからないのでは?」と言われる方もいる。そういう方には,「動物園だからこそ可能な研究があるのですよ。」とお答えする。例えば,動物園ならば一日のすべての活動を調べることができるし,ある個体の妊娠・出産から一生にわたる期間を見続けることもできる。
 そうした研究の成果として,京都市動物園では,ゴリラの子どものゲンタロウが生まれてから親元に戻るまでのすべての過程を記録できた。チンパンジーの子どものニイニが道具を使えるようになったり,親に学んで木の枝でベッドを作れるようになる過程を数年間にわたって調査した。ラオスから来たゾウたちについても,来園以来継続した調査を続けている。その他の様々な動物についても調査・研究を行っている。研究者から見ると,動物園はとても貴重な資源と言えるだろう。
 もうひとつの訳は,「動物園」と「研究」という言葉が一般の市民の方にはまだしっくりこないからのようだ。動物園はあくまで娯楽や癒しを得るための場所だという認識を持つ方が多い。しかし前述のとおり,動物園では様々な研究を行っていて,そこから多くの発見がある。園内のガイドイベントや動物舎の掲示物,ホームページやSNS,さらには本稿のような活字メディア等,さまざまなメディアでわかりやすくお知らせしている。残念ながら,まだまだ市民の皆さんに浸透するまでに至っていない。こちらはこつこつと継続していくことこそ,道は開けると信じている。
 京都市動物園ではチンパンジーやゴリラ,サルなどの知性の高さを知ってもらう機会として,タッチモニターに出された課題を動物たちが答える「お勉強」を続けている。テナガザルとはもう9年の付き合いになるが、サル舎で「勉強」に付き合っていると,「テレビで見たことがある」とか「これ知ってる!」といった声をかなり聞くようになった。この間,毎月1回、サルの研究者として勉強の進捗やその時々のサルの様子,発見したことなどをお客さんにお話しする「サルの勉強の話」を続けてきた。こちらも継続こそ力なり,と信じて今後も続けていきたい。これらの努力の先に,京都市動物園といえば「研究」という言葉がしっくりくるようにしていきたい。(京都市動物園 生き物・学び・研究センター長)
(京都新聞社の許可を得て掲載)
 

 

以下の文章は,京都新聞 平成29年12月8日夕刊1面「現代のことば」で掲載されたものです。

「会って話すことの意義」                                                 田中 正之
 夏の終わりから秋にかけて,いくつかの学会やシンポジムや研究集会に参加した。参加する時には何かしら発表を持っていくことにしている。発表が自己紹介であり近況報告となって,参加者との話がしやすいからだ。ICT(情報通信技術)が発展して,どこに行っても情報が取れるこの時代になって,なぜわざわざ直接会って話をする必要があるのかと不思議に思う人もいるだろう。
 それは直接会って話をすることで,メールやSNSでは伝わらない情報が交換できるからだ。相手の反応を見ながら話すことで,どれくらいわかってくれているか,こちらの話に興味をもってくれたかどうか,同意してくれるか反対なのかが伝わってくる。また,論文やウェブページやメールでは出てこない情報もあるので,行ってみて初めて知ったということもよくあることだ。
 先日,台湾で開催されたAZEC(アジア動物園水族館教育担当者会議)に参加した。その際に台北動物園も訪ね,園長をはじめ関係者に動物園の取り組みを説明してもらった。台北動物園も京都市動物園と同様に100年を超える歴史があるが,次々施設を更新しながら,最新の飼育管理手法を導入していた。教育や研究にも力を入れており,たくさんのスタッフを擁し,会議にもその多くが出席していた。初めて訪れた台湾で先進性に圧倒され通しだった。
 動物園や水族館が,台湾での科学教育において重要な役割を占めていることがわかった。この時代だから調べれば情報は得られるが,実際に動物園に来て話を聞き,会議ではアジア各国の発表を目の当たりにすると,私たちももっと頑張らねばと焦りすら湧いてきた。私は,京都市動物園で行っているチンパンジーやゴリラの「勉強」を通して,彼らの知性に気づいてもらう展示の試みを発表した。いずれはこういう場で,京都市動物園全体の教育プログラムを紹介したいと思った。
 冒頭に人と直接会って話をすることの重要性を述べたが,それは動物園での教育にも通じる。秋の京都は国内外から観光客が訪れ,動物園もいろいろな世代の方を迎える。とりわけ,学校から多くの子どもたちが動物園に学習に来てくれる時期でもある。その機会に動物のこと,動物園で働く人,動物園のこと,動物園にいる動物が以前暮らしていた野生の世界まで,知ってもらいたいことはたくさんある。希望される学校や団体には,スタッフが園で直接説明を行っているので,詳しくは京都市動物園のウェブページを見てほしい。
 12月は全国の動物園の獣医師や飼育員が集まり,研究成果の発表や動物の飼育管理にかんする情報を交換する動物園技術者研究会が行われる。公益社団法人日本動物園水族館協会の主催で,今年は京都市で開催される。残念ながら会議自体は一般の方には参加いただけないが,京都市動物園でその報告を兼ねた講演会やパネル展,公開シンポジウムを12月16日から23日にかけて行う予定だ。この機会に動物園の活動の多様さに触れていただければ幸いである。(京都市動物園 生き物・学び・研究センター長)
(京都新聞社の許可を得て掲載)
 

 

以下の文章は,京都新聞 平成30年2月7日夕刊1面「現代のことば」で掲載されたものです。

「存在するための言葉」                                                 田中 正之
 どんな組織にも、それが存在する目的が必要だ。
 京都市動物園は、明治36(1903)年,今から115年前に開園した。動物園を規定する京都市の条例は昭和12年に制定され,時代とともに改正されてきた。その第1条には,「市民の教養とレクリエーションに資するため」に設置するとある。
 京都市動物園が加盟する公益社団法人日本動物園水族館協会のホームページには,次の役割を果たすことを目標に掲げている。「種の保存」,「教育・環境教育」,「調査・研究」,「レクリエーション」である。これは世界の動物園・水族館が掲げているもので,いわばグローバル・スタンダードと言ってよい。
 私がセンター長を務める「京都市動物園 生き物・学び・研究センター」は,平成25年に設置された新しい組織だが,その目的として京都市動物園における学術研究と環境教育をより一層推進することをうたっている。私なりにその目的を果たすために精いっぱいやってきたし,今後も励みたい。
 動物園をめぐる近縁の状況を振り返ると,京都市が京都大と「野生動物保全に関する研究と連携の協定」を締結したのは平成20年のことで,今年で10周年を迎える。連携の中核施設となったのが,京都市動物園と京都大野生動物研究センターであり,この10年にわたり共同研究や教育のための事業協力を進めてきた。
 私は10年前,連携協定に基づいて,京都大野生動物研究センターの教員として,京都市動物園で動物の研究や市民に向けた教育活動に関わってきた。野生動物研究センター設立の憲章に「地域動物園や水族館等との協力により,実感を基盤とした環境教育を通じて,人間を含めた自然のあり方についての深い理解を次世代に伝える」ことを掲げているからだ。
 動物園での研究が推進される時代になり,動物園を研究の場とする研究者は確実に増えているが,個人や研究室のレベルがせいぜいである。この10年,京都市と京都大ほど,組織として濃密な連携を維持してきた例は,国内には他にないだろう。
 この間に動物園・水族館をめぐる世界はさらに動いた。欧米では動物園で展示する野生動物の生息地における保全活動が動物園の使命とされ,あわせて,科学的な動物福祉の規準に基づいた飼育環境の改善が強く求められる時代となった。日本はというと,国内での稀少種や生息域保全の活動は地域レベルで行われているものの,動物園が地球レベルでの環境を考える場所になってはいない。
 京都市は1997年地球温暖化防止京都会議が開かれ,「京都議定書」が取りまとめられた地である。先に挙げた野生動物研究センターの憲章の冒頭には、その設立意義を「野生動物に関する教育研究をおこない、地球社会の調和ある共存に貢献することを目的とする」としている。京都市動物園でも,連携してきた次の10年の目標として地球環境を共に考える活動をしていきたい。(京都市動物園 生き物・学び・研究センター長)
(京都新聞社の許可を得て掲載)
 

 

以下の文章は,京都新聞 平成30年4月4日夕刊1面「現代のことば」で掲載されたものです。

「研究する動物園」                                                 田中 正之
 京都市動物園は今年1月31日付けで研究機関となった。正確には,科学研究費補助金取扱規程に規定する研究機関の指定を,文部科学省から受けた。つまり,京都市動物園は,国の学術研究の振興策としての科学研究費助成事業に申請する資格を得たということだ。
 私たち研究者が「科研費(科学研究費補助金)」と呼ぶこの補助金は,文系・理系を問わず,基礎から応用まで,研究者の自由な発想に基づく研究を発展させることを目的とするもので,常に資金難にあえぐ研究者にとっては貴重な研究資金である。ただし,研究機関に指定されたらお金が降ってくるわけではない。科研費は競争的資金であり,研究計画の査読を受け,評価されればその評価と計画の規模に応じて研究費が配分される。評価が低ければ採択されない。1円ももらえない。
 この科研費を申請できる研究機関には,大学や文科省所管の研究機関,高等専門学校などがあるが,それ以外の機関は文部科学省の審査を受けて指定される。研究機関のリストは公開されており,そこには民間企業の研究所の他に,自治体の博物館や科学館も載っている。そのリストの中に「動物園」はひとつもなかった。京都市動物園は動物園という名称で研究機関としての指定を受けた最初の例となった。
 これまで動物園で研究が行われていなかったわけではない。昨年12月に京都市で行われた公益社団法人日本動物園水族館協会が主催する動物園技術者研究会では,全国の動物園職員が集まり,41件の研究報告が行われた。動物園や水族館では,獣医師や飼育職員によって多様な動物種を対象とした獣医学的な研究,行動学的研究,動物福祉科学的な研究などが行われてきた。それらの成果は,協会の機関誌「動物園水族館雑誌」等に論文として掲載されている。それでも,研究機関の指定を受けるためのハードルはいくつもあり,専任の研究者のいる「生き物・学び・研究センター」をもつ京都市動物園が,現時点では動物園として唯一の研究機関になったということだ。
 京都市動物園ではこれまでも研究実績は積み上げてきた。それらはすべて公開している。「京都市動物園 生き物・学び・研究センター」で検索していただければ,私たちの活動を御覧いただけるので,今後も注目していただければ幸いである。
 今年4月には,平成20(2008)年に京都市と京都大学が交わした「野生動物の保全に関する教育と研究の連携協定」が10周年となり,14日と15日に「野生動物学のすすめ」をおこなう。連携する京都大学から,野生動物の研究者を招き,講演やミニワークショップを行う。アジアやアフリカの地で野生動物の調査を続ける研究者と交流できる貴重な機会となるので,ぜひ御参加いただきたい。あわせて,「きょうと☆いのちかがやく博物館」として連携する京都府立植物園や京都水族館,京都市青少年科学センターからも出展いただく一大イベントなので,きっと楽しみながら学んでいただける日になると思う。(京都市動物園 生き物・学び・研究センター長)
(京都新聞社の許可を得て掲載)
 

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